さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

21-4

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とりあえず今のところ変な動きはないが、それでもまだまだ油断はできない。
 しかし、警戒するリディアーヌに、ロキがリラックスした様子で話し掛けてきた。

「あんた、連れは? まさか一人で来たわけじゃねえだろ?」
「……そうね」
「大方、はぐれて迷子になったってとこか?」
「まあ、そんなとこよ」
 本当は自分からわざわざはぐれてこんなところに来たわけだが、リディアーヌは素直に頷いて答えた。

「連れは男か」
「そうよ」
「喧嘩でもしたか?」

 どうしてわかるのか。
 黙ったまま、ピクリと片眉を上げたリディアーヌを見て、ロキが楽しそうに笑った。

「何でわかったのかって、顔だな? そりゃあそんなの、少し考えればわかることさ」
「……そう」
「じゃあ、俺にも少しはチャンスがあるのかな?」
 いたずらっぽく笑い掛けてくる。
 リディアーヌは、小さく肩をすくめた。

「ないわね」
「つれねえなあ。こんな親切にしてやってんのに」
「それとこれとは別だわ」
 そっけなく答えたリディアーヌに、ロキがクツクツと笑う。
 どうも、読めない男だ。

「で。喧嘩の原因は?」
「……」
「女か」
「違うわ」
「じゃあ、分かんねえな。でもどうせ、くだらねえ理由だろ」
「くだらなくなんかないわよ!」
「ふーん? じゃあ、言ってみろよ。くだらないかどうか、判断してやるぜ」
 そう言って、ニヤニヤと笑う。
 溜息を吐いたリディアーヌは、ロキの挑発に乗ることにした。
 どうせ話した所で、ロキに会うことは二度とないのだ。
 それに、気詰まりなまま歩くよりかは、こうやって話していた方がいい。

「……聞いても、馬鹿にしないでよ?」
「わかった」
「……ベルは、私のこと、好きっていうわけじゃないんだわ」

 言葉にした途端、胸が軋む。
 苦しそうに顔を曇らせたリディアーヌを、いつの間にか隣に来ていたロキが、ちらりと見てきたのがわかった。
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