さくらんぼの恋

碧 貴子

文字の大きさ
上 下
93 / 123
第二章

19-4

しおりを挟む

 そんな時、前方からやって来た人物が驚いたようにリディアーヌ達に声を掛けてきた。

「おい! ベルトじゃないか! 久しぶりだなあ!」
 同じ年頃のとび色の髪の青年が、目を見開いてリディアーヌとエーベルトを交互に見やっている。

「えっ!? もしかして、彼女!?」
「ノートン、久し振り。紹介するよ、妻のリディだ」
「お前、いつの間に結婚したんだよ!? しかもスゲエべっぴんじゃねえか!!」
 ノートンと呼ばれた青年が、素っ頓狂な声を上げた。

「最近結婚したんだ」
「はあっ!? マジかっ!! ズリイっ!! なんで、お前ばっかそんなにモテんだよ!?」
「そうか?」
「はあ~、くそっ。いいなあ、そんな美人と。……しかし、お前が結婚したとなると、ガッカリする女が多いんじゃねえか?」
「そんなことないと思うぞ?」
「いいや! アニーとかミリー辺りは、マジで泣くぞ!?」

 女性の名前に、思わずピクリと反応してしまう。
 しかし、そんなリディアーヌには気付かない様子で、ノートン青年が話を続けた。

「まあでも、そんな綺麗な子がいたんじゃ、お前があれだけ女共に騒がれてもサッパリなわけだ。つか、いつからのつきあいなんだ?」
「リディとは、子供のころからだよ」
「じゃあ、子供のころからずっと好き合ってたってことか。くそう! 羨ましい話だぜ! ……まあでも、おめでとう! お幸せにな!」

 笑顔で去って行くノートンに手を振ったリディアーヌは、ここ最近胸に蟠っていた、もやもやとした感情が再び沸き上がってくるのを感じていた。

 最近リディアーヌには、気になっていることがあった。
 それは、エーベルトはリディアーヌのことをどう思っているのか、ということだ。

 実は、エーベルトから、好きだと言われたことはない。
 確かに、一緒に居たいと言われたし、結婚しようとは言われたが、所謂愛の告白的なものはここまでのところ一切ない。
 これまではそのことを特に気にしたことはなかったのだが、エーベルトのことが好きだと意識してから、リディアーヌはエーベルトの気持ちが気になってしょうがなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...