さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

18-3

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「ねえ、アディ。どうしたらいいと思う!?」
「そう、ねえ……」
「このままじゃ、まともに人前に出れないわっ!!」

 さっきもダンスを踊りながら、ドキドキしっぱなしだったのだ。
 動揺しすぎて、エーベルトの足を何度踏んだかわからない。
 というか。
 ダンスはまずい。非常に、まずい。
 まず、あのホールドの姿勢だ。あんなにも体を寄せ合い、手を取り合って腰を引き寄せられるのだ、どうしたって意識してしまう。
 しかも、結婚してからは堂々と体を密着させられて、ダンスの動きが夜の営みを連想させる。
 ダンスをこんなにもいやらしいものだと感じる日が来るとは、リディアーヌは思いもしなかった。

「リディ達は、恋愛期間を飛ばしてそのまま結婚したようなものだから、かもしれないわね」

 苦笑するアデーレの言葉に、リディアーヌはハッとなった。
 確かに、エーベルトのことが好きだと意識したのも、つい最近なのだ。

「少し、恋人みたいにしてみたら?」
「どっ、どうすればいいのっ!?」

 喰い付き気味に身を乗り出したリディアーヌに、アデーレがにっこりと微笑んだ。

「デートでもしてみれば?」
「デっ、デート……」
「ほら、二人でお忍びで町に行ってみるとか」
「お忍び……」
「平民の恋人達みたいに、町でイチャイチャするの! すっごく楽しいわよ!」
 アデーレの瞳がキラキラ光っている。

「手を繋いで公園を散歩したり、屋台で買い物したり! 喫茶店に入るのもいいわね!」
 どうやらこの口振りでは、アデーレはお忍びデートを何度もしているらしい。

「普通に町に行くのと、どう違うの?」
「だってお忍びだから、人目を気にせずイチャイチャできるじゃない? 町にはそんなカップルが一杯だし。それに、それならリディも必要以上に緊張しなくて済むんじゃないかしら」
「そ、そうね……」

 貴族と違い、基本自由恋愛の平民は、男女交際が盛んだ。
 結婚前に、大っぴらに男女が人前でキスをするのも日常茶飯事だという。
 そんな自由な雰囲気の中でなら、自分も必要以上に意識せずに済むのかもしれない。
 それに、確かになんだか楽しそうだ。

 その後も、アデーレから散々お忍びデートの話を聞かされたリディアーヌは、すっかりその気になっていた。


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