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第二章
16-3
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ただ、いつまでもそのままというわけにはいかない。月のものは昨日で終わっているのだ。
本当であれば、昨日の内に告げることもできたのだが、それをエーベルトに告げるということは、婉曲的に夜のお誘いをすることと同じであるため、リディアーヌはどうしてもできなかった。
別にそういう行為が嫌なわけではない。
とにかく、恥ずかしいのだ。
優しく見つめられるだけでこんな照れて恥ずかしいのに、更にはそれ以上の行為、ましてや自分から誘いを掛けるなど出来るわけがない。
だが、さすがにそろそろエーベルトも気付く頃だろう。
それに旅行中ずっと、エーベルトが寝苦しそうにしていたのも知っている。昨日の夜、何度か物問いた気な視線でリディアーヌを見つめていたのにも気が付いている。
(……さ、さすがに今夜は、しなくちゃダメよね……)
この後のことを考えると、叫び出したくなるほどの羞恥に内心身悶えするリディアーヌであった。
その日の夜、義理の父母となった公爵夫妻の、二人を見守るなんとも温かい-------というかニヤニヤとした視線を感じながら晩餐を終えたリディアーヌ達は、早々に自室に戻っていた。
旅の疲れが残っているからと、エーベルトが半ば強制的にリディアーヌを連れて二人の部屋に戻ったのだ。
戻るなり、どうやら事前に申し付けて用意していたらしい風呂に、入ってくるようにと勧められて、今リディアーヌは一人浴室に居た。
やんごとない貴族令嬢であるリディアーヌは、湯浴みは基本メイドに手伝ってもらうのだが、まあ別に一人で出来なくもない。実際この旅行中は、ずっと自分一人で湯浴みをしていた。
だが、ここは公爵邸だ。
今日に限って何故一人で? と、首を傾げつつも、一人湯をかぶっていると、その時背後のドアの外で人の気配がした。
手伝いのメイドかしらと思ったリディアーヌは、ドア越しに声を掛けられて、思わず狼狽えてしまった。
「リディ?」
「ベ、ベル? な、何?」
「……一緒に入ってもいい?」
「だっ、駄目よっ!! 絶対駄目っ!!」
「……」
咄嗟に上ずった声でそう答えたリディアーヌに、エーベルトがあからさまに残念そうなため息を吐いたのが聞こえた。
というか、エーベルトはいったい何を言っているのだ。
まあ夫婦だし、いつかは一緒に入るのもいいだろう。
しかし、それはあくまでもっと先の話だ。
一緒に風呂に入るなど、そんなのは上級者夫婦がすることだ。少なくとも、リディアーヌが兄嫁から貰った初級者編の本には出てきていない。
結婚したての自分達には、まだまだ早いだろう。
そもそも夫婦の交わりすら、殆どしていないのだ。
ドキドキする胸を押さえ、とりあえずドアの外の気配が去ったことにホッと息を吐いたリディアーヌだったが、今の遣り取りからあることを察して、ますます動悸が激しくなってしまった。
本当であれば、昨日の内に告げることもできたのだが、それをエーベルトに告げるということは、婉曲的に夜のお誘いをすることと同じであるため、リディアーヌはどうしてもできなかった。
別にそういう行為が嫌なわけではない。
とにかく、恥ずかしいのだ。
優しく見つめられるだけでこんな照れて恥ずかしいのに、更にはそれ以上の行為、ましてや自分から誘いを掛けるなど出来るわけがない。
だが、さすがにそろそろエーベルトも気付く頃だろう。
それに旅行中ずっと、エーベルトが寝苦しそうにしていたのも知っている。昨日の夜、何度か物問いた気な視線でリディアーヌを見つめていたのにも気が付いている。
(……さ、さすがに今夜は、しなくちゃダメよね……)
この後のことを考えると、叫び出したくなるほどの羞恥に内心身悶えするリディアーヌであった。
その日の夜、義理の父母となった公爵夫妻の、二人を見守るなんとも温かい-------というかニヤニヤとした視線を感じながら晩餐を終えたリディアーヌ達は、早々に自室に戻っていた。
旅の疲れが残っているからと、エーベルトが半ば強制的にリディアーヌを連れて二人の部屋に戻ったのだ。
戻るなり、どうやら事前に申し付けて用意していたらしい風呂に、入ってくるようにと勧められて、今リディアーヌは一人浴室に居た。
やんごとない貴族令嬢であるリディアーヌは、湯浴みは基本メイドに手伝ってもらうのだが、まあ別に一人で出来なくもない。実際この旅行中は、ずっと自分一人で湯浴みをしていた。
だが、ここは公爵邸だ。
今日に限って何故一人で? と、首を傾げつつも、一人湯をかぶっていると、その時背後のドアの外で人の気配がした。
手伝いのメイドかしらと思ったリディアーヌは、ドア越しに声を掛けられて、思わず狼狽えてしまった。
「リディ?」
「ベ、ベル? な、何?」
「……一緒に入ってもいい?」
「だっ、駄目よっ!! 絶対駄目っ!!」
「……」
咄嗟に上ずった声でそう答えたリディアーヌに、エーベルトがあからさまに残念そうなため息を吐いたのが聞こえた。
というか、エーベルトはいったい何を言っているのだ。
まあ夫婦だし、いつかは一緒に入るのもいいだろう。
しかし、それはあくまでもっと先の話だ。
一緒に風呂に入るなど、そんなのは上級者夫婦がすることだ。少なくとも、リディアーヌが兄嫁から貰った初級者編の本には出てきていない。
結婚したての自分達には、まだまだ早いだろう。
そもそも夫婦の交わりすら、殆どしていないのだ。
ドキドキする胸を押さえ、とりあえずドアの外の気配が去ったことにホッと息を吐いたリディアーヌだったが、今の遣り取りからあることを察して、ますます動悸が激しくなってしまった。
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