さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

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 温かな春の風に白い花弁が舞っている。
 見上げれば、無数の白い花をつけた枝が重そうに垂れている。白い枝間からのぞく空は、なんとも柔らかな水色だ。
 ここはアルシュガルド公爵邸内にある、桜の園だ。春のこの時期、ここは一面真っ白になる。
 その為アルシュガルド公爵邸は、別名『桜邸』と呼ばれているのだ。

 園内の小道をゆっくりと辿って、リディアーヌは隣を歩く彼女の夫を見上げた。
 幼馴染でもある淡い金髪の青年、エーベルトとは、一週間前に結婚式を挙げたばかりだ。まだ、夫と言うには少しくすぐったい。

「……旅先も素敵だったけれど、やっぱり私はここの景色が一番好きだわ」

 リディアーヌ達は昨日新婚旅行から帰ってきていた。
 旅行先の港町は国の有名な観光保養地で、白い石造りの建物が明るい空と海の青に映えてとても美しい街だった。

「はは。リディは本当、桜が好きだね」
「そうね。花は綺麗だし、その実は美味しいし。本当、言うことなしよね」

 初夏に実をつけるさくらんぼの砂糖漬けは、公爵家の名物でもある。リディアーヌはこのさくらんぼを使った菓子が大好物なのだ。

「じゃあそろそろ、お茶にしよう」
 言いながら腰に腕を回されて引き寄せられる。
 蕩けるように優しく微笑みかけられて、リディアーヌは思わず照れて赤くなってしまった。
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