さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

13-3

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「そんなに気に病まなくてもいいと思うわよ? 初めては誰でもそんなものじゃないかしら」
 そう言って慰めるように微笑む兄嫁に、リディアーヌは少し気持ちが軽くなった。
 もしかしたら兄嫁も初めては苦労したのかもしれない。

「……お義姉様も?」
「ええ。最初は、絶対無理って思ったもの。ほら、トール様は体も大きくていらっしゃるから」

 リディアーヌの兄は背も高く、体を鍛えていることもあってかなり大柄な部類だ。兄嫁は別に小さいわけではないが、華奢な分、兄と並ぶとかなりの体格差を感じる。

「事前に丁寧に解して下さったのだけれど、やっぱり痛くて痛くて……」
「そうだったんですね……」

 やはり初めてはどうやっても痛いのだ。
 それでも皆が通る道なのだから、自分も頑張って耐えるしかないのだろう。
 しかしその前に、リディアーヌは一つ疑問に思ったことを聞いてみた。

「ところでお義姉様。ほぐす、とは?」

 首を傾げるリディアーヌに、兄嫁があら、といった様子で軽く目を見開いた。

「……もしかしてリディ、知らないのかしら……?」
「あ、はい」

 先程の兄嫁の話では、事前に解してもらったと言っていたが、リディアーヌにはなんのことだかさっぱりわからない。
 きょとんとした顔のリディアーヌに、兄嫁が再び苦笑した。

「ふふふ、そうよね。リディは大人のキスも知らなかったんですものね」
 そう言っておもむろに立ち上がると、前と同じように本棚から一冊の本を取り出した。
 今回の本も綺麗な刺繍のカバーが掛けられている。刺繍の柄が前回のものと同じところをみるに、きっと以前言っていた続きの本なのだろう。

「読んでみてわからないことがあったら、遠慮なく聞いてちょうだい」
「ありがとうございます!」
 にっこり微笑む兄嫁に、リディアーヌは笑顔でお礼を言ったのだった。
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