さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

8-3

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 図書室に着くと、リディアーヌが向かうことを受けていたメイド達がちょうどお茶の支度を終えたところだった。ソファーに座ったリディアーヌにお茶を注いでから、メイド達が図書室を後にする。
 扉を閉めて出て行くメイド達を見て、リディアーヌは首を傾げた。
 図書室とはいえ、今ここにはエーベルトとリディアーヌの二人きりだ。お目付け役であるはずのクロードすらいない。
 前から思っていたが、どうやら公爵家の人間にリディアーヌ達は相当信頼されているらしい。きっと二人は間違いなど起こさないと思われているのだろう。
 にもかかわらず、ここ最近の自分達は彼等の信頼を裏切るような行為に耽っていたのだ。
 それを思うとリディアーヌは申し訳なくなってきてしまった。
 先程の公爵夫人の侍従頭への言葉も、“二人だったら間違いは起きないから、後は二人きりにしても大丈夫よ”という意味だったのだろう。そこまで信頼されたら、それには応えねばなるまい。
 リディアーヌは、改めて今後は結婚までキスはするまいと決心した。

 しかし、二人きりになった途端すぐにエーベルトが隣に座ってくる。
 これはきちんと二人で話し合わねばならないだろう。リディアーヌは真面目な顔でエーベルトを見上げた。

「ベル」
「何だ?」
 そう言って何とも嬉しそうに見つめられて、早くもリディアーヌは決心が揺らぎそうになった。
 そのままキスをされそうになって、慌てて手を挟んで遮る。
 拒まれたエーベルトが、不満そうな顔になった。

「リディは嫌なのか?」
「い、嫌じゃないけど……」
「じゃあ、いいだろ」
 二人の間を遮っていたリディアーヌの手をあっさり掴んでどかすと、再びキスをしようとしてくる。
 リディアーヌは必死になって顔をのけ反らせた。

「ちょっ!! まっ、待ってっ!!」

 このままキスをしてしまったら、この前の二の舞になってしまう。何より拒める自信が無い。
 必死に抵抗するリディアーヌに、エーベルトが諦めたようにため息を吐いて顔を離した。
 しかし、両手は掴んだままだ。

「なんでそんなに嫌がるんだ?」
「嫌とかそいうんじゃなくて、私達、もっと自重したほうがいいんじゃないかと……」
「というと?」
「……ほら、最近私達、結婚前だというのにちょっとはしたなかったから……」
「今更だろう? 第一、大人のキスの練習をしようって言い出したのはリディじゃないか」
「で、でも! キスだけで止まらないじゃない!」
「……まあ」
 エーベルトが気まずそうな顔になった。
 一応彼も思う所があるのだろう。
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