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第一章
8-2
しおりを挟む馬車の中でエーベルトから結婚しようと言われてから数日が経ち、その日リディアーヌは公爵家を訪れていた。
今日は一緒に暮らす部屋の内装や家具の確認などの為にやってきているのだ。二人の結婚まで後2ヶ月程しかない。
結婚すると決めたからには、これまで親任せにしていた結婚の準備を本腰を入れてやらなくてはならない。幸い両家の母親たちが気合を入れて準備をしてくれていたお蔭で、リディアーヌがやらねばならないことは然程ないのが救いだが。
久々に会う公爵夫人は相変わらず物凄い熱量だった。女の子が欲しかった夫人は、子供のころからリディアーヌをベタ可愛がりに可愛がってくれているのだ。ちなみにエーベルトは下に弟が一人いる。
「リディちゃん! ああもう、これで名実ともにあなたが私の娘になるなんて、もう結婚式が待ち遠しくて待ち遠しくてっ!!」
「おば様……」
「リディちゃんったらっ!! おば様じゃないでしょ!? もうお母様と呼んで、ねっ!?」
「はい、お母様」
「ああーっ!! 嬉しいわーっ!! それにこれまであんなにゴネてたくせに、エーベルトもどうやらようやく腹を決めたみたいだし。二人の間で何かあったのかしらね? ふふふふふふふ」
そう言って何とも嬉しそうに笑う。
何と言って良いかわからないリディアーヌは、あいまいな笑みを浮かべた。
「うちはリディちゃんがいつきても良いよう準備万端だから、安心して嫁いでらっしゃいね!」
「ありがとうございます」
「もうねー、あとはエーベルトがもうちょっと甲斐性があってくれればいいんだけどねー」
「はあ」
「そうそう! ここはもういいから、エーベルトに会ってらっしゃいよ!! テオっ!!」
「はい、奥様」
夫人の呼びかけに、側に控えていた侍従頭がスッと前に出る。
振り返った夫人が、何とも艶やかににっこりと微笑んだ。
「クロードに、“後は二人で”と伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
何やら含みのある物言いだが、何のことやらさっぱりわからない。
戸惑うリディアーヌだったが、今エーベルトは図書室に居るからと満面の笑みで送り出されて、首を傾げつつリディアーヌはその場を後にした。
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