さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

7-3

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 おずおずと手合わせを申し込まれて受け入れる。するとその騎士が頬を染めて笑顔になった。
 短期集中でと、持ち前の身軽さを活かした技ですぐさま騎士の剣を絡めて弾き飛ばす。あっさりと勝負に勝ったリディアーヌに、周りからどよめきが上がった。
 手合わせを終えたリディアーヌは、あっという間に次の対戦を申し込む騎士達で囲まれてしまった。やけに熱量の大きい高い人垣に囲まれて、思わず戸惑ってしまう。
 そんな時、遠くからよく知った声で名前を呼ばれて、リディアーヌは驚いて振り返った。

「リディ! なんでここに!?」
「ベル!」

 どうやら今日はエーベルトの登城の日だったらしい。
 ホッとして笑顔になったリディアーヌに、しかし何故かエーベルトは眉を顰めて不機嫌な顔で見返してきた。

「なんで一人で!? 兄上は!?」
「え? 今日は一人で来たんだけど……」
 強い口調で問われて、リディアーヌは戸惑ってしまった。
 何故こんなにもエーベルトは怒っているのか。
 訳が分からず立ち尽くしていると、側までやってきたエーベルトがリディアーヌの手を強引に引いた。

「……帰るぞ」
「ええっ!? なんで!?」
「いいから!!」
 エーベルトの横暴なその態度に、リディアーヌはなんだかムカムカと腹が立ってきてしまった。

「ちょっと! 離してちょうだい!」
 そう言ってエーベルトの手を振り払う。
 手を振り払われたエーベルトがイライラとした視線を向けてきたため、ますますリディアーヌは腹が立ってきた。

「まだ帰らないわ!!」
「リディ!!」
「私、まだ一回しか手合わせしてないもの!!」

 キッと睨みつけるリディアーヌに、エーベルトが苛立った声を上げた。

「わかった。じゃあ、俺が相手になる。それならいいだろ?」
「いいわ」
「そのかわり、俺が勝ったら大人しく帰るんだぞ?」
「わかったわ」

 予想外の展開に、リディアーヌは腹立ちながらもワクワクしていた。
 エーベルトとの手合わせは随分と久しぶりだ。最近は女である自分に遠慮してか、エーベルトが剣の相手をしてくれることはなかったのだ。
 しかし、ハンデと称して両手両足に重りをつけ、更に重りのベストを着たエーベルトを見た途端、リディアーヌの中でめらめらと怒りの炎が燃えあがった。
 やはりエーベルトは自分を対等として扱ってくれないのか。並び立つことを拒否された悲しみと怒りがリディアーヌの中で再び蘇る。
 キスをしてから久しく忘れていたその感情に、リディアーヌは腹の底が煮えくり返るようだった。
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