さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

7-1

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「お嬢様、またエーベルト様と喧嘩なさったんですか?」
 公爵家から帰る馬車の中で、侍女のアンヌが呆れたようにリディアーヌを見つめてきた。
 ちょうどエーベルトのことを考えていたリディアーヌは、思わず慌ててしまった。

「ぅえっ!? な、なんで……っ!?」
「……? どうされました?」
 声が裏返ってしまったリディアーヌに、アンヌが不審な眼差しになる。
 リディアーヌは咳払いをして気持ちを落ち着かせた。

「な、なんでもないわ……。それより、どうしてそう思うの?」
「だって、お部屋でなんのお話をされてたのか知りませんが、その後ずっと話もしないで、目線すら合わせなかったじゃないですか!」
「あ、ええ……」
「あんなにも楽しそうにお出掛けになられたのに、なんでまた喧嘩なんかなさるんです!?」
「……」
「もうご結婚まで3ヶ月もないんですからね!? もう少し仲良くなさったらいかがです!?」
「……そうね」
 何と言って答えたら良いかわからないリディアーヌは、とりあえず大人しく頷いた。
 そのまま目線を窓の外に向ける。
 いつにないリディアーヌの様子に、アンヌが心配そうな顔になって口をつぐんだ。

 どうしても思い出してしまうのは、先程のエーベルトとのキスだ。思い出すと同時に自然と鼓動が早くなる。頭が痺れて溶けてしまいそうな感覚に、先程はまるで自分が自分でなくなってしまったかのようだった。
 それにあの時、エーベルトに胸を触られても自分は全く嫌ではなかったのだ。あのままいつまでもエーベルトとそうしていたいと思ってしまった自分に、リディアーヌは驚いていた。

(……キスが、あんなに気持ちのいいものだったなんて……。知らなかったわ……)

 生まれて初めて経験した感覚に、リディアーヌは盛大に戸惑っていた。

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