さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

6-4

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 公爵家に着くと、エーベルトが何とも嬉しそうに笑って出迎えてくれたため、リディアーヌは一気に嬉しくなってしまった。
 そのまま温室に案内されそうになって、リディアーヌは慌ててエーベルトの服の裾を引っ張り、部屋で話をしたい事を伝えた。
 温室では、いくら下げさせるといっても必ず使用人の目がある。というか、完全に二人きりになることは出来ない。
 さすがに今から自分たちがすることを考えても、密室のほうがいいだろう。
 何故か部屋で二人きりになることを戸惑う素振りを見せるエーベルトを訝しみつつも、部屋の扉を閉めたリディアーヌは、件の本をしっかりと抱きしめながらエーベルトの隣に座った。

「……ねえ、ベル。大人のキスの練習をしましょう」
 そう言ってエーベルトににじり寄る。
 リディアーヌの膝がエーベルトの脚に触れた途端、それまで固まったように動かなかったエーベルトが慌ててリディアーヌの両腕を掴んで体を離した。

「なっ!? リディっ!! いきなりどうしたんだっ!?」
「どうしたも何も、今言った通りよ?」
「君はっ、自分が何を言ってるのかわかってるのかっ!?」
 真っ赤になってそう言うエーベルトを、リディアーヌは眉を寄せて見上げた。

「……ベルは、大人のキスがあるって知ってたの?」
「そ、そりゃあ知ってるさ!!」
 どうやらエーベルトは大人のキスについては知っていたらしい。リディアーヌは少しだけがっかりした。
 自分が教えてあげられると思っていたのだ。

「じゃあ、なんでしないの?」
「そ、それは……っ」
「練習、するんでしょ?」
「……っ!!」
 首を傾げて見上げると、何故かエーベルトが真っ赤になったまま再び固まってしまった。
 そのまま片手で顔を押さえて、何やらブツブツと独り言を言う。
 ひとしきり俯いてブツブツ言っていたエーベルトが、指の隙間からちらりとリディアーヌを盗み見てきた。
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