さくらんぼの恋

第一章

6-3

「お義姉様……。この本は……」
「ふふふふふ。リディにあげるわ」
「あ、ありがとうございます……」

　渡された本は、どうやら男女の恋愛小説のようだ。
　ただ一点、これまでリディアーヌが読んだことのある恋愛小説とは決定的に違っている。
　それは、やけにリアルなキスシーンの描写があることだ。

「それ、続きがあるの。必要になったら言ってね？」
　そう言ってにっこりと微笑む。

「でも、必要ないかしら。絶対エーベルト様はご存知だと思うわよ？」
「そうでしょうか……？」
「ふふふ、エーベルト様はリディを随分と大事になさってるのね」
「……？」
　意味が分からず首を傾げるリディアーヌに、兄嫁が何とも楽しそうな顔になった。

「とにかくその続きは、リディの結婚前に渡すわね？」
「は、はあ……」
「ああ！　楽しみだわ！　リディ、エーベルト様に頑張ってって、伝えてね？」
　瞳をキラキラさせてそう言う兄嫁に、リディアーヌは気圧され気味に頷いたのだった。


　その日の夜、私室でこっそりと兄嫁から貰った本を開いたリディアーヌは、その刺激的な内容にぷるぷると震えながら一気に読み終わってしまった。

（……し、知らなかった……！　キ、キスで、そんなことをするなんてっ……！！）

　というよりも、世間の男女がそんなことをしているということが驚きだ。
　そして、これは絶対エーベルトは知らないだろうと、リディアーヌは確信した。そもそも、初めてのキスで鼻をぶつけるようなエーベルトが、こんなキスのやり方を知っているはずがない。

（これは早速、試してみなくてはっ！）

　翌日、早速アルシュガルド公爵家に使いの者を遣ってエーベルトの都合を聞いたリディアーヌは、兄嫁にもらった本を持ってエーベルトに会いに行くことにしたのだった。