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第一章
6-1
しおりを挟む湖の畔でキスをしてから、リディアーヌとエーベルトは時々キスをするようになった。
ただ、二人の周りには常に誰かが控えており、二人きりになれるチャンスは意外にない。
お目付け役でもあるアンヌ達の目を掻い潜って交わす口付けは、ドキドキするものの、物足りなさをリディアーヌは感じていた。
エーベルトに口付けられると、想像していたよりも甘く柔らかい唇の感触に、何故かもっともっとという気持ちが膨らんでくる。試しに強く唇を押し付けてみたが、自分が欲しているものはそれだけではない気がしてしょうがない。
それに、いつか垣間見た兄と兄嫁のそれは、もっと何か違ったような気がする。
リディアーヌも、一応一通り男女の性については教育を受けていたが、いかんせん教材の知識でしかない。
しかも、キスのやり方は教わっていない。
それにきっとあの初めてのキスの様子から考えて、そういった知識に関してはエーベルトも自分とそう大して変わらないに違いない。
だったら、練習をすると言ったからには、ここはリディアーヌが何とかするしかあるまい。
そこまで考えて、リディアーヌは意を決して兄嫁の部屋を訪れた。
「あら、リディ。どうしたの?」
そう言って優しく微笑む兄嫁は、リディアーヌの5つ上だ。ちなみに兄は、リディアーヌより8つ上だ。
一児の母である彼女は、落ち着いた大人の女性の色気を纏っている。しかし彼女は意外に可愛らしく、明るく御茶目な一面を持っているのだ。
何かと義妹である自分を実の妹のように可愛がってくれている兄嫁は、リディアーヌが一番頼りにしている存在でもある。
最近立って歩けるようになった息子を乳母に任せて、兄嫁がリディアーヌにお茶を勧めた。
「ここ最近、エーベルト様はいらっしゃってないのね?」
「ええ。なんだかんだいっても、ベルは忙しいから」
「ふふふ。エーベルト様は将来を期待された次期公爵ですものね」
そうなのだ、普段エーベルトは意外に忙しい。
公爵家の執務に加えて、数年前からは父親である現公爵と共に王宮での政務にも携わるようになったのだ。
そんな事情もあって、子供の頃と違い簡単には会えなくなってしまったことも、なんだかエーベルトが遠くなってしまった気がしてリディアーヌは寂しかった。
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