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第一章
5-2
しおりを挟むあの夜、庭園の木立に身を潜ませてアデーレの後を尾けるリディアーヌを追いながら、友人の心配より前に自分の心配はいいのかと、エーベルトは盛大に呆れていた。
いくらリディアーヌが強いといっても、それでも彼女は女の子なのだ。力押しで組み伏せられでもしたらひとたまりもないだろう。
肩も腰も華奢で、白く細いその腕で、どれだけの抵抗が出来ると思っているのだ。
そもそも、周りが密会する男女だらけのこんな怪しげな場所で、男の自分と二人きりだというにもかかわらず、全く、ひとかけらの心配もしていないリディアーヌに、エーベルトは何故か腹が立って仕方がなかった。
いつも意識するのは自分ばかりだ。
夜会のドレスから覗く白くなめらかなうなじに、触れれば折れそうな程華奢な肩に、リディアーヌが女の子であることを意識せずにはいられない。
しかも、友人のレイノルドとの遣り取りのせいで、余計に今は意識してしまう。
レイノルドにリディアーヌの気持ちを伝え、彼女の気持ちに応えてやって欲しいと頼んだ時、では自分がリディアーヌに触れているところを想像してみればいいと苦笑して言われて、思わずその様子を想像したエーベルトは、耐え難い程の怒りを感じたのだ。どうやら自分は、自分以外の男がリディアーヌに触れるのはどうしても許せないらしい。
そんな自分の反応に戸惑いつつ、周りの雰囲気にあてられたこともあって、なんとも落ち着かない気持ちでいたところ、更にはリディアーヌに変なことを聞かれて、エーベルトはますます意識せずにはいられなくなってしまった。
そんな時、リディアーヌが自分以外の男とキスをしたことがある可能性に思い至り、エーベルトは一瞬我を忘れるほどの怒りに襲われた。
目の前の赤いさくらんぼのような唇に触れたことのある男がいると考えただけで、あまりの怒りに自分がどうにかなってしまいそうだった。
思わず無理矢理引き寄せて顔を近づけると、こぼれんばかりに見開かれたリディアーヌの青い瞳に出会い、エーベルトは少し落ち着いた。
この反応ではきっとリディアーヌも初めてに違いないと思い直し、先程までの怒りは多少凪いだものの、今度は別の感情に支配される。
目の前の唇にキスしたいという強い欲求のまま、目を瞑ってリディアーヌに口付けようとしたところ、互いの鼻の存在をすっかり忘れていた為に、エーベルトの初の試みは散々な結末に終わった。
おかげで頭は冷えたわけではあるが。
その日から、エーベルトは自分の欲求に懊悩することになってしまった。
寝ても覚めても思い出されるのは、すぐ目の前にあった赤く柔らかそうなリデイアーヌの唇だ。
同時に、痛みの為に紅潮した顔のまま、涙目で上目使いに覗き込んできたリディアーヌの姿が思い出されて、胸の奥が甘く疼く。ついでに別の場所も激しく疼いて主張するため、エーベルトは困りきっていた。
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