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第一章
4-2
しおりを挟む「それで? 頼みたいことって?」
「…………や、その……」
心なしかエーベルトの顔が赤い。
隣に座って見上げるリディアーヌからエーベルトが視線を逸らせた。
「なによ? 勝負に負けたんだから、ちゃんと言うことは聞くわよ?」
急に挙動不審になったエーベルトを訝しみつつ、カップを片手に聞く。
躊躇うように言い掛けては止めてを何度か繰り返した後、ようやくエーベルトが意を決した様子でリディアーヌを見つめてきた。
「……キスの練習をさせて欲しいんだ」
「…………は?」
リディアーヌは思わずぽかんと口を開けてしまった。
エーベルトは既に真っ赤っ赤だ。
「この前、リディにキスをしようとして、盛大に失敗したろ?」
「……そうね」
「さすがにこれじゃまずいって思ったんだ」
真っ赤な顔で俯いて、ボソボソとそう言う。
そんなエーベルトを見ているうちに、だんだんと言われた意味を理解してきたリディアーヌは、なんだかムカムカと腹が立ってきてしまった。
つまりは、リディアーヌに練習台になれと言っているのだ。これ程失礼な話はない。
「……そんなに練習したいんだったら、そういう方と練習すればいいんじゃなくて?」
思わず冷やかな声になる。
それこそキスの練習だったら、経験豊富な女性に手取り足取り教えてもらえばいいのだ。
そもそも好きでもない相手とそういうことをしたくないと言ったのは嘘だったのか。
考える程に腹が立ってしょうがないリディアーヌは、カチャリと音を立ててカップをソーサーに戻した。
「いやっ! だからそういうことは誰とでもできることじゃないだろう!?」
「それで? だから、なんでそこで私なの?」
慌てるエーベルトに、リディアーヌはますます冷やかな視線を向けた。
「だから!! リディとはしたいと思ったんだよ!!」
「私は嫌」
リディアーヌの冷たい拒絶に、エーベルトが深く傷ついた顔になった。
その顔に、一瞬リディアーヌの胸がきりりと痛んだ。
「それは、俺とじゃ嫌だってことか……?」
「……そうよ」
苦しげに歪められたエーベルトの顔を見ていられなくて、思わず顔を逸らせてしまう。
しかしすぐに腕を掴まれ引き寄せられて、驚いたリディアーヌが顔を上げると、思ってもない程近くにエーベルトの顔があった。
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