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第一章
3-2
しおりを挟むアデーレは一人だ。
というか、人気のない場所に未婚の令嬢が一人で来ることはまずない。庭園などもってのほかだ。
途端にリディアーヌはアデーレが心配になってきた。
きっと例の恋人に会いに行くのだろうが、向かう場所が悪すぎる。まだ婚約発表も済ませていない状態で、何か間違いがあったらどうする気なのだ。
まあ、それをいったら自分たちもいくら婚約者同士とはいえ、未婚の男女が人気のないテラスになどいるべきではないのだが、そこはエーベルトとリディアーヌだから別にいいのだ。第一、自分たちに間違いなど起こりようがない。
「ちょっと、ベル。行くわよ」
「は? どうした急に?」
戸惑うエーベルトにも構わず、急いでアデーレの後を追う。
気付かれないように距離を置き、植え込みに隠れながら後を追うリディアーヌに、エーベルトが呆れた声を出した。
「……おい、リディ。放っといてやったほうが良くないか?」
「何言ってるのよ!? アディに何かあったらどうするのよ!?」
「や、ただな。このままいくと、俺達はただの出歯亀だぞ?」
「ベルは心配じゃないの!? 仮にも好きだったんでしょう!?」
「とはいっても、俺達が口を出すことじゃないだろ? それに、本人たちだってちゃんと弁えてるだろう」
「じゃあいいわよ。ベルが行かないっていっても、私は一人で行くわ。それに、何かあってからじゃ遅いもの」
気付かれないよう声を潜めて非難するリディアーヌに、エーベルトが諦めたようにため息を吐いた。
こうなったリディアーヌは止められないということを良く知っているのだ。
「仕方がないやつだなあ。さすがにリディ一人で行かせるわけにはいかないだろ?」
「別にいいわよ。それに、私の剣の腕前は知ってるでしょ?」
「……お前なぁ。そういう問題じゃないだろ!?」
「まっ! 何よ“お前”って!!」
急に言葉遣いが荒くなったエーベルトに、リディアーヌはムッとしてしまった。まるでリディアーヌはなにもわかってないかのような言い方ではないか。
それにリディアーヌの剣の腕前は、普通の騎士よりも強い。
「リディがわかってないからだよ!!」
「はあ!? 何がわかってないっていうのよ!! ベルの癖に!!」
「なんだよそれ!! ていうか、リディは自分の腕を過信しすぎだ!!」
エーベルトのその言葉は、リディアーヌにとって触れては欲しくないことだった。
カッなったリディアーヌは、真っ赤になってエーベルトに向き直った。
「うるさいわね!! すぐにそうやって馬鹿にする!! 確かに昔と違って今じゃベルには勝てないわよ!!」
エーベルトも子供の頃からリディアーヌと一緒に剣の稽古をつけられていたのだ。
幼い頃は同じくらいの実力だった二人だが、いつの間にかエーベルトはメキメキとその才能を発揮し、今ではリディアーヌでは太刀打ちできない程の腕前なのである。
リディアーヌはそれが悔しいとともに、何故か寂しくて寂しくて堪らなかった。
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