さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

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「……リディ。実は、……言い難いんだが……」

 歯切れの悪いエーベルトに、リディアーヌはため息を吐いた。

「ベル。私もあなたに話があるのよ」
「……なんだ?」
 いつになく沈んだ声のリディアーヌに、エーベルトが不安げに眉を寄せた。

「実はね……」
 さすがに恋の不成就を告げることには躊躇いがある。
 しかし、どうせいつかは知れるのだ。だったら傷つくのは早い方がいい。
 リディアーヌは覚悟を決めた。

「あのね、アディ、付き合ってる人がいるんですって……」
「……そうか」
「ごめんね、私も今日知ったの……」
「や、それなら仕方がない」
 意外にエーベルトはサッパリした顔だ。
 リディアーヌは拍子抜けしてしまった。

「え? 大丈夫?」
「ああ。それに、何となくそんな気はしてたからな」
 どうやら無理をしているというわけでもなさそうだ。
 いつもと変わりないエーベルトの様子に、リディアーヌはホッとしてしまった。

「それより、リディ」
「なに?」
「実はな……、レイノルドにも付き合ってる女性がいるそうだ。……すまん、俺も今日知ったんだ」
「……そうなのね」

 何となく予想がついていたことだったため、意外にリディアーヌは辛くなかった。
 どおりでこれまであれ程アプローチしてもなしの礫だったわけだ。むしろその事実を知って、リディアーヌはすっきりとした気持ちになっていた。それに何故かどこか安心している自分もいる。
 しかし、リディアーヌは無意識にそんな自分について深く考えることを止めた。

「……大丈夫か?」
「ええ。実は私も、何となくそんな気がしてたのよ」
「そうか……」
 晴れ晴れとした顔で答えたリディアーヌに、エーベルトがホッとした顔になった。
 きっとレイノルドのことを知って、リディアーヌが傷つくんじゃないかと心配してくれていたのだろう。自分のことよりもリディアーヌの気持ちを気にしてくれていたことに、リディアーヌはなんだかくすぐったい気分になった。

「……じゃあ、計画は考え直さなきゃだな」
「そうね。でも今度は------」

 その時、テラスを抜けて庭園へと降りていくアデーレの姿を認めて、リディアーヌは言葉を途切れさせた。
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