さくらんぼの恋

碧 貴子

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第一章

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この際エーベルトには悪いが、手っ取り早く彼の気持ちを伝えてしまった方が早いだろう。
 だってもう散々アデーレにはエーベルトの良いところは伝えたし、二人は何度もダンスを踊っているのだ。二人の関係性を縮めるには、もうそれしかないというリディアーヌの判断だ。
 それに、女性には朴念仁のエーベルトが、アデーレにうまく自分の気持ちを伝えられるとも思えない。

「実はね、ベルはアデーレが好きなのよ」
「……リディ……」
 真剣な瞳で見つめるリディアーヌに、アデーレがため息を吐いた。
 アデーレの顔が、困った人ね、といった表情になる。リディアーヌがエーベルトのことを勧める度に、アデーレはこの顔をするのだ。

「本当よ? 会う度いつもアデーレのことばかり話してるんだから」

 そう、いつもアデーレを引き合いに出してリディアーヌの嫌味を言ってくるのだから。

「だからアディ、ちょっとベルのこと考えてあげてみてくれないかしら?」
「リディはそれでいいの?」
「もちろんよ! 親友と幼馴染の二人のことだもの、幸せになって欲しいに決まってるじゃない!」

 にこにこと笑うリディアーヌに、アデーレがますます苦笑した。

「ねえリディ。あなた達はお互いが近くに居すぎて、本当の気持ちに気付いてないのよ」
「そんなことないわよ!」
「じゃあ、想像してみて」
「何を?」
「エーベルト様と私が付き合うってことは、エーベルト様が私とキスをするってことよ?」

 一瞬エーベルトとアデーレがキスをしているところを想像して、リディアーヌの胸が激しくざわついた。何故かそれ以上考えてはいけない気がして、リディアーヌはすぐにその想像を止めた。
 しかし、そんなリディアーヌの心の動きがわかったのだろう、アデーレがにっこりと微笑んだ。

「ね? 嫌でしょ?」
「そ、そんなことないわ!」
「それに私、お付き合いしてる人がいるの」
「え? ……ええええっ!?」
 思わずリディアーヌは、自分が侯爵令嬢であることを忘れて素っ頓狂な声を上げてしまった。
 いつにないリディアーヌらしからぬ振る舞いに、周りが驚いて注目しているのがわかる。
 しかし今はそれに構っていられない程、リディアーヌは驚いていた。


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