さくらんぼの恋

碧 貴子

文字の大きさ
上 下
7 / 123
第一章

2-3

しおりを挟む


確かに普段は嫌味ばかりだが、本当にリディアーヌが落ち込んだり傷ついたりしているときのエーベルトは意外に優しい。リディアーヌもエーベルトのそんなところは嫌いではなかった。

「それに今日のドレス、凄く似合ってる」
「本当?」
「ああ。その水色に銀糸の刺繍のドレス、リディの青い瞳に映えてとても綺麗だ」
「……ありがとう。そういうベルも、その光沢のある青いジュストコールがとっても似合ってるわ」

 どちらもそれぞれの瞳の色であり、互いが婚約者であることを対外に知らしめるための装いなのであるが、子供のころからずっとどこかに互いの色を入れた服装であった二人にはそれが普通であるため、それの意味するところに関しては無頓着だ。
 しかも、淡い金髪に青灰色の瞳のエーベルトと蜂蜜色の髪に瑠璃色の瞳のリディアーヌが並んだ様は、それこそ一対の人形のようなのである。端から見れば、まさしく似合いの二人以外の何ものでもない。
 まあ、二人はまったく気づいていないのだが。

 そんなこんなで王宮に着いた二人は、いつもと同じく完璧な微笑みを湛えて入場した。
会場に入るなり二人を見た周囲から嘆息の息が漏れる。あっという間に取り巻きに囲まれて、リディアーヌとエーベルトは外行そとゆきの笑顔で対応した。二人とも子供のころから互いの家を背負った行動を叩きこまれているため、意識しなくとも自然と人からどう見られるかを計算しつくした振舞が出来るのだ。
 しかしエーベルトの素を知っているリディアーヌからすると、エーベルトの外でのなんとも取り澄ました顔を見る度におかしくてしょうがない。まあきっと、向こうも同じことを思っているのは間違いないだろうが。

 エーベルトとのファーストダンスを終えて会場の端に移動したリディアーヌは、ダンス中に確認していた親友のアデーレのもとへと向かった。ちなみにエーベルトはレイノルドの所へ行っている。今日もそれぞれが互いに互いのことを売り込むのだ。

「アディ!」
「リディ!」

 親友の朗らかな笑顔を見て、思わずホッとしてしまう。
 慣れているとはいえ、やはり侯爵令嬢としての対応を求められる人間たちとの遣り取りは疲れる。
 リディアーヌをただのリディアーヌとして見てくれる人間は希少だ。

「ふふ、リディどうしたの?」
 優しく微笑むアデーレは、艶やかな栗色の髪にシトリンの瞳を持つ美少女だ。
 リディアーヌとは一つしか違わないというのに、しっとりとした大人な雰囲気を持っている。

「ねえアディ、お願いがあるのよ」
「あら、なにかしら。私でできることならいいのだけれど」

 他の人間と違って、面倒な挨拶、賛辞抜きで用件を話せるところがありがたい。

「あのね、ベルとダンスを踊ってあげて欲しいのよ」
「また? 別にいいけど……」

 苦笑するアデーレに、リディアーヌは言葉を続けた。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...