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第一章
2-3
しおりを挟む確かに普段は嫌味ばかりだが、本当にリディアーヌが落ち込んだり傷ついたりしているときのエーベルトは意外に優しい。リディアーヌもエーベルトのそんなところは嫌いではなかった。
「それに今日のドレス、凄く似合ってる」
「本当?」
「ああ。その水色に銀糸の刺繍のドレス、リディの青い瞳に映えてとても綺麗だ」
「……ありがとう。そういうベルも、その光沢のある青いジュストコールがとっても似合ってるわ」
どちらもそれぞれの瞳の色であり、互いが婚約者であることを対外に知らしめるための装いなのであるが、子供のころからずっとどこかに互いの色を入れた服装であった二人にはそれが普通であるため、それの意味するところに関しては無頓着だ。
しかも、淡い金髪に青灰色の瞳のエーベルトと蜂蜜色の髪に瑠璃色の瞳のリディアーヌが並んだ様は、それこそ一対の人形のようなのである。端から見れば、まさしく似合いの二人以外の何ものでもない。
まあ、二人はまったく気づいていないのだが。
そんなこんなで王宮に着いた二人は、いつもと同じく完璧な微笑みを湛えて入場した。
会場に入るなり二人を見た周囲から嘆息の息が漏れる。あっという間に取り巻きに囲まれて、リディアーヌとエーベルトは外行の笑顔で対応した。二人とも子供のころから互いの家を背負った行動を叩きこまれているため、意識しなくとも自然と人からどう見られるかを計算しつくした振舞が出来るのだ。
しかしエーベルトの素を知っているリディアーヌからすると、エーベルトの外でのなんとも取り澄ました顔を見る度におかしくてしょうがない。まあきっと、向こうも同じことを思っているのは間違いないだろうが。
エーベルトとのファーストダンスを終えて会場の端に移動したリディアーヌは、ダンス中に確認していた親友のアデーレのもとへと向かった。ちなみにエーベルトはレイノルドの所へ行っている。今日もそれぞれが互いに互いのことを売り込むのだ。
「アディ!」
「リディ!」
親友の朗らかな笑顔を見て、思わずホッとしてしまう。
慣れているとはいえ、やはり侯爵令嬢としての対応を求められる人間たちとの遣り取りは疲れる。
リディアーヌをただのリディアーヌとして見てくれる人間は希少だ。
「ふふ、リディどうしたの?」
優しく微笑むアデーレは、艶やかな栗色の髪にシトリンの瞳を持つ美少女だ。
リディアーヌとは一つしか違わないというのに、しっとりとした大人な雰囲気を持っている。
「ねえアディ、お願いがあるのよ」
「あら、なにかしら。私でできることならいいのだけれど」
他の人間と違って、面倒な挨拶、賛辞抜きで用件を話せるところがありがたい。
「あのね、ベルとダンスを踊ってあげて欲しいのよ」
「また? 別にいいけど……」
苦笑するアデーレに、リディアーヌは言葉を続けた。
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