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第一章
2-2
しおりを挟む「それを言ったらリディこそ。アデーレ嬢にはちゃんと俺のことを売り込んでくれてるんだろうな?」
「もちろんよ。ちゃんとあなたのことはさりげなく褒めたりしてアディに勧めてるんだから。それに、アディにはもう随分昔からベルとは結婚するつもりはないって言ってるわよ?」
「……じゃあ、なんでアデーレ嬢はあんな他人行儀な態度なんだ?」
「さあ? それこそベルに気がないってことなんじゃない?」
リディアーヌから見ても、アデーレがエーベルトに惹かれているようには全く見えない。
どんなにリディアーヌがエーベルトを売り込んでも、友人としての態度を崩さないアデーレがエーベルトに惹かれる可能性はどうやら低そうだ。
「な!? 君がアデーレ嬢に変なことを吹き込んだんじゃないだろうな!?」
「酷いわね! そんなことするわけないじゃない! そういうあなたこそレイノルド様に何か変なことを吹き込んだんじゃないでしょうね!?」
「そんなことするわけないだろ!? 俺がこれだけリディのことを褒めちぎってそれでもレイがまったくっていうのなら、やっぱりリディはレイの好みじゃないんだよ!」
「ベルだって! 私がこれだけアディにベルのことを言って駄目だっていうのなら、ベルはアディの好みじゃないのよ!」
思わず二人でにらみ合う。
しばらくそのままでいた後、それでもこのままいがみ合っていてもしょうがないと思ったリディアーヌは、これ見よがしにため息を吐いてからエーベルトに向き直った。
「……じゃあ、レイノルド様の好みの女性ってどんな方なの?」
今のリディアーヌがレイノルドの好みと違うというのなら、頑張ってそれに合わせればいいまでだ。
エーベルトとレイノルドは友人なのだから、それくらいは知っているだろうとリディアーヌは気を取り直して聞いてみた。
「淑やかで優しい、けれども芯の強い女性が好きだって言ってたぞ。ていうか、芯が強いっていう所以外、リディには当てはまってないだろ」
「……そうね」
やはりレイノルドに好きになってもらうのは無理なのだろうか。
さすがに辛くなってきたリディが顔を俯けると、それを見たエーベルトが慌てたように言葉を付け足してきた。
「ま、でも、リディにはリディの良さがあるわけだから。別にレイの好みと違うからってそんなに落ち込まなくてもいいんじゃないか? ほら、お淑やかなリディとか、そんなのリディじゃないだろ?」
確かに、お淑やかにというのは難しい。
候爵令嬢としての立居振舞はもちろん叩き込まれているが、基本リディアーヌは所謂淑女らしい習い事や趣味といったものが好きではない。
ニヴルヘイム侯爵家は武門の家系であることもあって、子供のころから護身術を叩きこまれてきたリディアーヌは、やんごとない令嬢でありながらかなりの剣の使い手でもある。
刺繍やピアノといったいかにも女性らしい趣味よりも、乗馬や狩りといった体を動かすことが好きなのだ。
「俺はリディのそういう所は嫌いじゃないぞ」
「…………ありがとう」
珍しく落ち込むリディアーヌを励ますエーベルトに、リディアーヌは素直にお礼を言った。
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