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第一章
2-1
しおりを挟むそれから何度目かの夜会の日、エスコート役として候爵家に迎えに来たエーベルトを見て、リディアーヌはいつもながらに内心感嘆の息を吐いた。
(……本当、見た目はいいのよね)
最近は特に、アデーレの気を引くため気合を入れているのだろう。
子供のころから一緒でエーベルトを見慣れたリディアーヌでさえ見惚れる程なのだ、これならきっとアデーレもエーベルトに見惚れるに違いない。
「やあリディ。相変わらず本当、見た目だけはいいな」
「あらベルこそ。本当、見た目だけはいいのね」
微笑んで腕を差し出したエーベルトに、リディアーヌも微笑んでその腕を取る。
「ところで今日は、どういう作戦でいくの?」
優雅にエスコートされて馬車に乗ったリディアーヌは、馬車が走り出すなり向かいに座るエーベルトに話を切り出した。
今はエーベルトの嫌味に構っている場合ではないのだ。今日こそレイノルドの心を掴むために何とかしなければならない。
「作戦も何も、今日もレイにリディをダンスに誘うよう言うだけだよ」
事も無げに答えたエーベルトに、リディアーヌはため息を吐いた。
「はあ。ベルに期待した私が馬鹿だったわ」
「なんだよ」
エーベルトがムッとしたようにリディアーヌを見てくる。
リディアーヌの言葉が心外だったのだろう。
「ダンスなら、これまで何度も踊ったわ」
「だから?」
「それでも何ともならないから、ベルに協力をお願いしてるんじゃない」
同じ侯爵家同士、レイノルドとももちろんダンスを踊ったことはある。それに最近は、エーベルトの口添えもあってかなり頻繁にレイノルドとダンスを踊っているのだ。
その度にリディアーヌもアプローチしているのだが、エーベルトの友人と彼の婚約者という関係以上の進展はサッパリなのである。
「レイノルド様は私のことはあくまでベルの婚約者として見てらっしゃるから、まずはそこをベルから否定してもらわないと」
「そんなのわかってるさ。俺だってレイには何度もリディとは結婚するつもりはないって言ってるんだぞ?」
「そうなの?」
「ああ。それでもレイがその気にならないってことは、リディには気がないってことなんじゃないか?」
「まっ! そこを何とかするのがベルの役割でしょう?」
第一それを言ってしまったら、今回の計画が立ち行かない。
いったい何を言ってるのだとリディアーヌが片眉を上げると、エーベルトがムスッとした顔で見返してきた。
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