さくらんぼの恋

第一章

1-2

「……それで？　何か策はあるの？」
　リディアーヌがカップをソーサーごとテーブルに置くと、エーベルトが無言でケーキを取り分けリディアーヌに渡す。
　リディアーヌは当然のようにそれを受け取り、一切れ口に含んだ。
　ちなみに使用人達は密談のために下がらせているのだ。

「もちろん」
「ふーん、それで？」
「お互いに、恋人を作ればいいんだよ」
　エーベルトが、勝ち誇ったような顔で言った。

「リディ、君、レイノルドが好きだって言ってたろ？」
「そうね。レイノルド様はベルと違って紳士だし、優しいし、何より大人だもの！　それに、あなただってアデーレが好きだって言ってたわよね？」
「本当、一言多い奴だな。……そうだな、アデーレ嬢はリディと違ってお淑やかで女性らしいし、何より優しいからな！」
　互いに顔を見合わせ、にっこりと微笑み合う。
　周囲から見たら、それこそ仲の良い恋人同士の語らいにしか見えない。まあ、本人たちは全く気付いてないのだが。

「というわけで。なんとか互いの意中の人と、恋人同士になればいいわけだ」
「なるほどね」

　さすがに両親たちも、リディアーヌとエーベルト二人に恋人が出来るような事態になれば、二人の結婚を諦めるだろう。

「……で、だ。君はレイノルドと、俺はアデーレ嬢とうまくいくように、互いに協力し合わないか？」
　そう言ってエーベルトが完璧な微笑みをリディアーヌに向けた。
　無駄にキラキラしいその笑みに、リディアーヌも負けじと艶あでやかに微笑んだ。

「そうね。いいわよ」
「よし！　じゃあそうと決まったら、次の夜会が勝負だな」

　今度の週末に王宮の夜会があるのだ。
　侯爵・公爵家のリディアーヌとエーベルトはもちろんのこと、侯爵令息のレイノルドと伯爵令嬢のアデーレもその夜会には必ず来るはずだ。

「まあ、精々着飾ってくるんだな。リディは見た目だけはいいからな」

　馬鹿にしたように言われて、リディアーヌは憤慨してしまった。
　これだからエーベルトは嫌なのだ。すぐにこうやってリディアーヌを馬鹿にしてくる。