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朝起きて、部屋の前で待っていたコンデンサと合流し、まるで生まれてから今日までの二十八年間ずっと同じ行動を繰り返していたかのように自然と食堂に向かった。
今日は結構早起きをしたようで、食事の席にジュールが座っていた。
「よう」
そう声をかけるとちらりと俺を見てから顔を前に戻した。
「待っているからさっさと食べろ」
そうそっけなく言う。どうやら昨日のことを根に持っているらしい。
(案外子供っぽい奴なんだな)
俺は苦笑いしつつも彼の隣に腰掛けるとバスケットにもられたサンドイッチに手を伸ばした。
コンデンサは今日は抵抗への朝食の準備をしていないようだった。反対にジュールの身の回りの世話に忙しそうだ。
俺は朝食を食べ終えると立ち上がり、ジュールの方を見た。ジュールも何も言わずに立ち上がる。
「じゃあ、コンデンサ。行ってくるよ」
「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」
そう言いコンデンサが深々とお辞儀をした。
その後、彼女に弁当とクリップボードと紙を受け取るとジュールと共に食堂をあとにした。
「お前、弁当はいらないのか?」
そう尋ねるとジュールがわずかに頷いた。
「ああ。朝食に出たサンドイッチを持ってる」
そう言ってサンドイッチが入っているだろう袋を掲げた。
「お前もコンデンサに頼めば弁当を作ってもらえるかもしれないぞ」
そう言うとジュールが首を振った。
「コンデンサに俺が外を出歩いていることを知られたら小言を言われるからな。黙っておいたほうがいい」
彼の返答になるほどと俺は頷く。
(まあ、次期国王がこんな風にほっつき歩いていたら、それを止めるのが従者として正しい行動だよな)
そう思っていると不意に隣を歩いていたジュールが足を止めた。そしてこちらに振り向く。
「あんたは先に行っててくれ。俺は着替えてから正門に向かう」
「ああ、分かった」
そう俺が頷いたのを見届けてから、ジュールが近くにあった豪華な扉から中に入っていった。その部屋の前に昨日コイルが立っていたのを思い出す。
(やっぱりここがこいつの部屋なんだな)
そう思いながらそこを一瞥したあと、俺は玄関に向かった。
玄関を出て正門に向かって歩いていると、門の下で抵抗が誰かと話しているのが見えた。
(誰だ……?)
不思議に思い目をこらせば、そこにいたのは見覚えのある黒髪に堅物そうな顔をした人物だった。
「コイル、また一人で化学地方に行くつもりか?」
朝食のトレーを持った抵抗の言葉にコイルが「ああ」と頷いた。その言葉に抵抗が顔をしかめる。
「前にも言ったけど危険すぎるよ。化学地方の人たちは物理地方の住民である俺たちのことを嫌ってる。特にお前は王室専属の科学者だ。一人で行動していたら何をされるか分からないぞ?この間だって化学地方の荒くれ者に襲われかけたばかりじゃないか」
抵抗の言葉をコイルが黙って聞く。
「待ってろ、今すぐスイッチに頼んで電子を借りてくる。電子に門番を任せて俺もお前と一緒に行くよ」
そう言うや否や、コイルが首を振った。
「抵抗、相手に心を開いてもらうためには、こちらが武装していてはいけない」
「それはそうかもしれないけどさ……」
コイルの言葉に抵抗が不満そうな顔をする。
「だからってお前が傷つけられでもしたら、それこそ戦争になるよ」
そう言うが、コイルには折れる気がないようだった。抵抗はそれに気づいてやれやれと首を振る。
「分かったよ。でも、途中までは電子に護衛させる。シアンタウンに近づいたら帰ってくるように電子に伝えておくからさ。それならいいだろ?」
コイルはしばらく腕を組んで考え込んでいたが
「ああ。それならかまわない」と頷いた。
「分かった。じゃあ、電子を連れてくるよ」
そう言って歩き出そうとした抵抗が何かに気づいたように立ち止まる。
「ああ、でも俺はここを離れられないや」
そう言って困ったように笑う抵抗にコイルが首を振った。
「いい。私がスイッチに頼んで電子を貸してもらえるよう頼んでくる」
そう言ってコイルが体の向きを変え、こちらに歩いてきた。そして立ち止まっている俺を見やる。
「……今日も公式を取り戻しに行くのですね」
「まあな」と俺は頷いた。
「あんた、大丈夫なのか?さっき、化学地方の奴に襲われたと言っていたが……」
そう言うとコイルがかすかに眉をひそめた。
「大丈夫です。あなたには関係のないことですから、気になさらないように」
そうきっぱりと言われ俺はため息をついた。
コイルは静かにそんな俺を見つめながら再び口を開く。
「……あなたこそ、公式を消した犯人に襲われないよう気をつけてくださいね」
彼の言葉に俺は頷いた。
「ああ、心配するな。こう見えて結構体は丈夫なんだ」
そう言ってにっと笑う俺をコイルは黙って見つめたあと、ゆっくりと隣を通り過ぎて行った。
コイルが去るのと入れ違いにジュールがやって来る。立ち止まっている俺を見て、彼が怪訝な顔をした。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。行くぞ」
そう答えるとジュールが探るように俺を見たあと歩き出した。
抵抗の方に近づいていくと、彼が腰に手を置いてため息をつくのが聞こえた。
「抵抗。どうかしたのか」
ジュールが尋ねると、抵抗が振り向いた。そして苦笑いをする。
「ジュール様、救世主様、おはようございます。……いえ、コイルがまた化学地方に一人で行くと言っていたので。まあ、途中までは電子に護衛してもらうようなんとか説得したんですけど」
そう言って困ったように頬をかいている。
「そうか……」
ジュールが低い声でそうつぶやいた。そんな彼と俺を見て抵抗が再び口を開く。
「そういえば、今日も公式を取り戻しに行くんですよね?今日はどちらに?」
「熱力学区だ」とジュールが述べた。すると、かすかに抵抗の顔が曇った。
「……そうですか。ジュール様、お気をつけて行ってきてくださいね」
抵抗の言葉に「ああ」とジュールが頷いた。
今日は結構早起きをしたようで、食事の席にジュールが座っていた。
「よう」
そう声をかけるとちらりと俺を見てから顔を前に戻した。
「待っているからさっさと食べろ」
そうそっけなく言う。どうやら昨日のことを根に持っているらしい。
(案外子供っぽい奴なんだな)
俺は苦笑いしつつも彼の隣に腰掛けるとバスケットにもられたサンドイッチに手を伸ばした。
コンデンサは今日は抵抗への朝食の準備をしていないようだった。反対にジュールの身の回りの世話に忙しそうだ。
俺は朝食を食べ終えると立ち上がり、ジュールの方を見た。ジュールも何も言わずに立ち上がる。
「じゃあ、コンデンサ。行ってくるよ」
「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」
そう言いコンデンサが深々とお辞儀をした。
その後、彼女に弁当とクリップボードと紙を受け取るとジュールと共に食堂をあとにした。
「お前、弁当はいらないのか?」
そう尋ねるとジュールがわずかに頷いた。
「ああ。朝食に出たサンドイッチを持ってる」
そう言ってサンドイッチが入っているだろう袋を掲げた。
「お前もコンデンサに頼めば弁当を作ってもらえるかもしれないぞ」
そう言うとジュールが首を振った。
「コンデンサに俺が外を出歩いていることを知られたら小言を言われるからな。黙っておいたほうがいい」
彼の返答になるほどと俺は頷く。
(まあ、次期国王がこんな風にほっつき歩いていたら、それを止めるのが従者として正しい行動だよな)
そう思っていると不意に隣を歩いていたジュールが足を止めた。そしてこちらに振り向く。
「あんたは先に行っててくれ。俺は着替えてから正門に向かう」
「ああ、分かった」
そう俺が頷いたのを見届けてから、ジュールが近くにあった豪華な扉から中に入っていった。その部屋の前に昨日コイルが立っていたのを思い出す。
(やっぱりここがこいつの部屋なんだな)
そう思いながらそこを一瞥したあと、俺は玄関に向かった。
玄関を出て正門に向かって歩いていると、門の下で抵抗が誰かと話しているのが見えた。
(誰だ……?)
不思議に思い目をこらせば、そこにいたのは見覚えのある黒髪に堅物そうな顔をした人物だった。
「コイル、また一人で化学地方に行くつもりか?」
朝食のトレーを持った抵抗の言葉にコイルが「ああ」と頷いた。その言葉に抵抗が顔をしかめる。
「前にも言ったけど危険すぎるよ。化学地方の人たちは物理地方の住民である俺たちのことを嫌ってる。特にお前は王室専属の科学者だ。一人で行動していたら何をされるか分からないぞ?この間だって化学地方の荒くれ者に襲われかけたばかりじゃないか」
抵抗の言葉をコイルが黙って聞く。
「待ってろ、今すぐスイッチに頼んで電子を借りてくる。電子に門番を任せて俺もお前と一緒に行くよ」
そう言うや否や、コイルが首を振った。
「抵抗、相手に心を開いてもらうためには、こちらが武装していてはいけない」
「それはそうかもしれないけどさ……」
コイルの言葉に抵抗が不満そうな顔をする。
「だからってお前が傷つけられでもしたら、それこそ戦争になるよ」
そう言うが、コイルには折れる気がないようだった。抵抗はそれに気づいてやれやれと首を振る。
「分かったよ。でも、途中までは電子に護衛させる。シアンタウンに近づいたら帰ってくるように電子に伝えておくからさ。それならいいだろ?」
コイルはしばらく腕を組んで考え込んでいたが
「ああ。それならかまわない」と頷いた。
「分かった。じゃあ、電子を連れてくるよ」
そう言って歩き出そうとした抵抗が何かに気づいたように立ち止まる。
「ああ、でも俺はここを離れられないや」
そう言って困ったように笑う抵抗にコイルが首を振った。
「いい。私がスイッチに頼んで電子を貸してもらえるよう頼んでくる」
そう言ってコイルが体の向きを変え、こちらに歩いてきた。そして立ち止まっている俺を見やる。
「……今日も公式を取り戻しに行くのですね」
「まあな」と俺は頷いた。
「あんた、大丈夫なのか?さっき、化学地方の奴に襲われたと言っていたが……」
そう言うとコイルがかすかに眉をひそめた。
「大丈夫です。あなたには関係のないことですから、気になさらないように」
そうきっぱりと言われ俺はため息をついた。
コイルは静かにそんな俺を見つめながら再び口を開く。
「……あなたこそ、公式を消した犯人に襲われないよう気をつけてくださいね」
彼の言葉に俺は頷いた。
「ああ、心配するな。こう見えて結構体は丈夫なんだ」
そう言ってにっと笑う俺をコイルは黙って見つめたあと、ゆっくりと隣を通り過ぎて行った。
コイルが去るのと入れ違いにジュールがやって来る。立ち止まっている俺を見て、彼が怪訝な顔をした。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。行くぞ」
そう答えるとジュールが探るように俺を見たあと歩き出した。
抵抗の方に近づいていくと、彼が腰に手を置いてため息をつくのが聞こえた。
「抵抗。どうかしたのか」
ジュールが尋ねると、抵抗が振り向いた。そして苦笑いをする。
「ジュール様、救世主様、おはようございます。……いえ、コイルがまた化学地方に一人で行くと言っていたので。まあ、途中までは電子に護衛してもらうようなんとか説得したんですけど」
そう言って困ったように頬をかいている。
「そうか……」
ジュールが低い声でそうつぶやいた。そんな彼と俺を見て抵抗が再び口を開く。
「そういえば、今日も公式を取り戻しに行くんですよね?今日はどちらに?」
「熱力学区だ」とジュールが述べた。すると、かすかに抵抗の顔が曇った。
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