22 / 26
y z
しおりを挟む
(さて、どうするかな)
中庭を出て考える。トランジスタの人形はもう見つけたからこれ以上何かしなければいけないことはない。
(そうだ、ジュールがちゃんとコイルのところに戻ったか確認しないとな)
そう思いコイルと会ったところに向かった。
アンペアの部屋の前を通りかかると、トランジスタがコンデンサと何かを話しているのが見えた。トランジスタが大切そうに三つ揃った人形を抱きしめている。
「エミッタ、見つかってよかった」
そう言ってより強く人形を抱きしめるトランジスタを気遣うように
「良かったね」とダイオードが優しく声をかけた。
嬉しそうに涙ぐんでいたトランジスタが、ふと不安そうな顔をした。
「エミッタ、失くしちゃった私のことを嫌いになってないかな?」
そう心配そうに言うトランジスタにコンデンサが笑いかけた。
「大丈夫よ、トランジスタ。エミッタは、あなたが心配して泣いてくれていたことをとても嬉しく思ってるわ」
「本当?」
いまだに心配そうな顔をしているトランジスタの頭をコンデンサが優しく撫でた。
「ええ、本当よ」
そう言うとトランジスタが顔を綻ばせ、大きく頷いた。
ゆっくりそちらに向かって歩いていく俺を見て三人が振り返った。
「エミッタが見つかってよかったな」
トランジスタが俺を見てぺこりと頭を下げた。
「救世主様、エミッタを探してくれてありがとうございます」
そう必死に涙を拭きながら言う彼女に俺は笑いかける。
「俺は何もしてないよ。コンデンサが見つけてくれたんだ、お礼ならコンデンサに言えよ」
そう言うとトランジスタがコンデンサにぺこりと頭を下げて
「ありがとう、コンデンサ」とお礼を言った。
「ふふ、いいのよ」
コンデンサに頭を撫でられているトランジスタを見ながら俺はダイオードに声をかけた。
「アンペアに会いたいんだが、今いいか?」
ダイオードが頷く。
「ええ。どうぞ」
俺はお礼を言うと公式の紙を取り出し部屋の扉をノックした。
アンペアの部屋に寄った帰りにコイルと会った部屋の前を通りかかったが、彼の姿は見当たらなかった。部屋の中に入ったのかと思い扉に耳をつけ聞き耳をたてたが、何も聞こえてこない。
(後でジュールがちゃんと来たかどうか聞いてみることにするか)
そう思いつつ、俺は回れ右をすると部屋に帰ることにした。
部屋に戻り、上着を脱いでベッドに倒れ込もうとしたとき、窓に小さな紙切れが張り付いているのが見えた。
(なんだ?)
怪訝に思い窓を開け、その紙切れを手に取る。
そこには、
『今すぐ公式を作るのをやめろ』
と書かれていた。
(この手紙は、例の犯人共からか……?)
俺は顔をしかめその続きを読む。
『物理地方の民たちは今まで化学地方の民たちを苦しめてきた。これは当然の報いだ』
その言葉を見て俺は考え込む。
(やっぱり公式が消えているのには、化学地方の奴らが関わっていると見て間違いないな)
手紙は
『君が我々の忠告を受け入れないのなら、こちらも然るべき手段をとらせてもらう』と言う言葉で締めくくられていた。
(完全に俺のことを脅迫してきたってわけだな。上等だ)
俺はこんな脅し文句でびびるような人間じゃない。大体、自分が命の危険にさらされることよりこのまま何もせずに物理という教科がなくなってしまうほうがよっぽど怖い。
手紙のフォントは機械で打ち込んだものだったので、筆跡から犯人を特定できそうにはなかった。
(ボルトたちに見せて余計な心配を与えるのも良くないし、これは俺が持っていることにしよう)
俺はその手紙を折りたたむとポケットの奥深くにしまい込んだ。
中庭を出て考える。トランジスタの人形はもう見つけたからこれ以上何かしなければいけないことはない。
(そうだ、ジュールがちゃんとコイルのところに戻ったか確認しないとな)
そう思いコイルと会ったところに向かった。
アンペアの部屋の前を通りかかると、トランジスタがコンデンサと何かを話しているのが見えた。トランジスタが大切そうに三つ揃った人形を抱きしめている。
「エミッタ、見つかってよかった」
そう言ってより強く人形を抱きしめるトランジスタを気遣うように
「良かったね」とダイオードが優しく声をかけた。
嬉しそうに涙ぐんでいたトランジスタが、ふと不安そうな顔をした。
「エミッタ、失くしちゃった私のことを嫌いになってないかな?」
そう心配そうに言うトランジスタにコンデンサが笑いかけた。
「大丈夫よ、トランジスタ。エミッタは、あなたが心配して泣いてくれていたことをとても嬉しく思ってるわ」
「本当?」
いまだに心配そうな顔をしているトランジスタの頭をコンデンサが優しく撫でた。
「ええ、本当よ」
そう言うとトランジスタが顔を綻ばせ、大きく頷いた。
ゆっくりそちらに向かって歩いていく俺を見て三人が振り返った。
「エミッタが見つかってよかったな」
トランジスタが俺を見てぺこりと頭を下げた。
「救世主様、エミッタを探してくれてありがとうございます」
そう必死に涙を拭きながら言う彼女に俺は笑いかける。
「俺は何もしてないよ。コンデンサが見つけてくれたんだ、お礼ならコンデンサに言えよ」
そう言うとトランジスタがコンデンサにぺこりと頭を下げて
「ありがとう、コンデンサ」とお礼を言った。
「ふふ、いいのよ」
コンデンサに頭を撫でられているトランジスタを見ながら俺はダイオードに声をかけた。
「アンペアに会いたいんだが、今いいか?」
ダイオードが頷く。
「ええ。どうぞ」
俺はお礼を言うと公式の紙を取り出し部屋の扉をノックした。
アンペアの部屋に寄った帰りにコイルと会った部屋の前を通りかかったが、彼の姿は見当たらなかった。部屋の中に入ったのかと思い扉に耳をつけ聞き耳をたてたが、何も聞こえてこない。
(後でジュールがちゃんと来たかどうか聞いてみることにするか)
そう思いつつ、俺は回れ右をすると部屋に帰ることにした。
部屋に戻り、上着を脱いでベッドに倒れ込もうとしたとき、窓に小さな紙切れが張り付いているのが見えた。
(なんだ?)
怪訝に思い窓を開け、その紙切れを手に取る。
そこには、
『今すぐ公式を作るのをやめろ』
と書かれていた。
(この手紙は、例の犯人共からか……?)
俺は顔をしかめその続きを読む。
『物理地方の民たちは今まで化学地方の民たちを苦しめてきた。これは当然の報いだ』
その言葉を見て俺は考え込む。
(やっぱり公式が消えているのには、化学地方の奴らが関わっていると見て間違いないな)
手紙は
『君が我々の忠告を受け入れないのなら、こちらも然るべき手段をとらせてもらう』と言う言葉で締めくくられていた。
(完全に俺のことを脅迫してきたってわけだな。上等だ)
俺はこんな脅し文句でびびるような人間じゃない。大体、自分が命の危険にさらされることよりこのまま何もせずに物理という教科がなくなってしまうほうがよっぽど怖い。
手紙のフォントは機械で打ち込んだものだったので、筆跡から犯人を特定できそうにはなかった。
(ボルトたちに見せて余計な心配を与えるのも良くないし、これは俺が持っていることにしよう)
俺はその手紙を折りたたむとポケットの奥深くにしまい込んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
A happy drive day!
シュレディンガーのうさぎ
キャラ文芸
事故発生件数の多い都道府県、愛知県。
そこでは『車なんでも相談所』を営む関朝陽、警察本部の交通捜査課で働く凪愛昼、自動車学校に勤務する要叶夜が暮らしていた。
また、朝陽と愛昼は『車の声が聞こえる』という少し変わった能力を持ち、車と会話することが出来る。
人間の荒い運転に嫌気がさした一部の車が良からぬことを企むなか、三人はそれぞれの立場から心に傷を負った車達と関わり合いながら『人間と車にとってよりよい社会』を模索していく。
*この話は一部の県名や地名、建造物の名前等を除き、全てフィクションです。登場する人物や交通事故等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる