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Ca
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廊下に出ると、先程クロロホルムと一緒にいたガスマスクをした隊員が目の端を歩いていくのが見えた。恐らく彼らがホスゲンが率いている治安維持部隊に所属している化学物質なのだろう。
慌てて陰に身を隠す。角から少し顔を出して覗きこめば、二人の隊員が何かを話しているのが見えた。
(どうしよう、こっちから行くと見つかっちゃうな……)
どのようにして一酸化炭素のもとへ行こうか考えていると後ろからとんとんと肩を叩かれた。ぎょっとして振り返ると、ノックスが立っていた。そして、指を口の前に持ってきて『静かに』のポーズをとった。
「私についてきて」
そう小声で言うノックスに俺は頷いてみせると、歩き出す彼女についていった。
しばらくくねくねとした細い道を進むと、非常扉のような厳重な扉の前にたどり着いた。そこにはソックスが立っていて、俺たちを見ると手を振った。
「この先に一酸化炭素がいるんだよ」とノックスが言う。
「そうなんだ。……ありがとう、二人とも。助かったよ」
そうお礼を言うとノックスとソックスが顔を見合わせて笑った。
「お礼は私たちじゃなくてPCBに言ってね」
「うんうん。お兄さんをこのルートで逃がせって言ったのはPCBなんだから」
二人の言葉を聞いて、頭の中に飄々とした紫色の瞳の彼を思い浮かべ、思わず笑みがこぼれた。
「そっか……。じゃあ、PCBにありがとうって伝えておいてくれる?」
そう言うと二人が同時に頷いた。
「じゃあまたね、お兄さん」
「お兄さんのこと、私たち結構気に入ってるんだから死んだりしないでね」
そう言って手を振る二人に俺も手を振り返しながらドアノブに手をかけた。
靴音に気づいて一酸化炭素が振り返り、俺を見てほっとした顔をした。
「無事だったか。クロロホルムのやつ、うまくやったんだな」
「うん。君が俺を助けてくれたんだよね。ありがとう、一酸化炭素」
そう言うと一酸化炭素が照れくさそうにそっぽを向いた。
「気にするな。……とにかく、今はほとんどの化学物質たちがお前のことを狙っている。ホスゲンは、今はお前がここで被験体になっていると思っているが、いつその嘘がばれるかも分からない。気をつけろよ」
一酸化炭素の言葉に俺は神妙な顔で頷いた。もし彼女たちが俺をかばったことがホスゲンにばれたら、俺だけでなく研究所の化学物質たちまで危険な目にあうかもしれない。それだけはなんとかして避けなければならない。
「……分かった、気をつける。そうだ、硫酸と硫化水素が俺をかばってホスゲンたちに……」
そう焦って言うと一酸化炭素の隣にいたヒ素が微笑んだ。
「大丈夫です!二人はカドミウムが説得して解放してもらいました。今はカドミウムと一緒に家にいると思います」
それを聞いて胸をなでおろすとともに、心の中でカドミウムにお礼を言う。
(家に帰ったら直接彼にお礼を言わないと)
一酸化炭素がタバコを取り出し、それに火をつけてから口を開いた。
「もうすぐ水銀がここに来るはずだ。そうしたらお前は水銀とともに青酸様のところへ向かえ。いいな?」
彼女の言葉に俺は頷いた。
「分かった。……それにしても、どうして俺がシアンタウンを破壊しに来た刺客だなんてことになったんだろう?」
そう考え込む俺を見て一酸化炭素が口を開く。
「誰かが悪意を持って流した噂を皆が信じたんだろうな。化学教師は化学の知識が豊富だ。それゆえにいろいろな化学反応を知っている。それを使って私たちを"殺して"、この世から消してしまおうとしていると化学物質たちは判断したようだ」
一酸化炭素の言葉に目を見開く。
「そんな……俺がそんなことするわけ」
「勿論分かっています」とヒ素が頷く。
「けれど、シアンタウンは元々人間への不信感が強い街です。そんな人間に自分たちが"殺される"と思ったら誰もが身を守るために躍起になるのは当然のことでしょう」
ヒ素の言葉に俺は納得した。確かに、余所者である俺のことをよく知らない化学物質たちが、どんなに根も葉もない噂だったとしても俺が刺客だという噂を信じてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
「とにかく、用心していくことだな。今は化学物質たちに説得は通じないと思え。お前が信頼できるのは、ここに来て直接お前が会った化学物質たちだけだ。その他の化学物質は皆敵だと思え」
一酸化炭素の強い語気の言葉に「分かった」と俺は頷いた。
「気をつけるよ。本当にありがとう、一酸化炭素、ヒ素」
そう言うとヒ素が照れくさそうに笑った。それを見て、一酸化炭素が煙を吐き出す。
「人間」
聞き慣れた声に振り返れば水銀が立っていた。そしてゆっくりとこちらに歩いてくる。
「カドミウムから聞いたが大変なことになってるらしいな。よくホスゲンに殺されずに済んだものだ」
そう感心するように俺を見る水銀に微笑んでみせる。
「一酸化炭素たちが助けてくれたんだ」
「そうか。……ありがとな」
水銀が軽くお辞儀をすると一酸化炭素とヒ素が銘々にそれに返した。
「気にするな。……ところで、青酸様はその人間に会うと言ってくれたのか?」
一酸化炭素の言葉に水銀が頷く。
「ああ、今すぐにでも会える」
そう答えてから俺の方を振り向いた。
「人間、鉱山に行く準備はいいか?」
「もちろん」と俺は力強く頷く。それを見てから水銀が軽く頷いた。
「よし。それなら……行くぞ」
慌てて陰に身を隠す。角から少し顔を出して覗きこめば、二人の隊員が何かを話しているのが見えた。
(どうしよう、こっちから行くと見つかっちゃうな……)
どのようにして一酸化炭素のもとへ行こうか考えていると後ろからとんとんと肩を叩かれた。ぎょっとして振り返ると、ノックスが立っていた。そして、指を口の前に持ってきて『静かに』のポーズをとった。
「私についてきて」
そう小声で言うノックスに俺は頷いてみせると、歩き出す彼女についていった。
しばらくくねくねとした細い道を進むと、非常扉のような厳重な扉の前にたどり着いた。そこにはソックスが立っていて、俺たちを見ると手を振った。
「この先に一酸化炭素がいるんだよ」とノックスが言う。
「そうなんだ。……ありがとう、二人とも。助かったよ」
そうお礼を言うとノックスとソックスが顔を見合わせて笑った。
「お礼は私たちじゃなくてPCBに言ってね」
「うんうん。お兄さんをこのルートで逃がせって言ったのはPCBなんだから」
二人の言葉を聞いて、頭の中に飄々とした紫色の瞳の彼を思い浮かべ、思わず笑みがこぼれた。
「そっか……。じゃあ、PCBにありがとうって伝えておいてくれる?」
そう言うと二人が同時に頷いた。
「じゃあまたね、お兄さん」
「お兄さんのこと、私たち結構気に入ってるんだから死んだりしないでね」
そう言って手を振る二人に俺も手を振り返しながらドアノブに手をかけた。
靴音に気づいて一酸化炭素が振り返り、俺を見てほっとした顔をした。
「無事だったか。クロロホルムのやつ、うまくやったんだな」
「うん。君が俺を助けてくれたんだよね。ありがとう、一酸化炭素」
そう言うと一酸化炭素が照れくさそうにそっぽを向いた。
「気にするな。……とにかく、今はほとんどの化学物質たちがお前のことを狙っている。ホスゲンは、今はお前がここで被験体になっていると思っているが、いつその嘘がばれるかも分からない。気をつけろよ」
一酸化炭素の言葉に俺は神妙な顔で頷いた。もし彼女たちが俺をかばったことがホスゲンにばれたら、俺だけでなく研究所の化学物質たちまで危険な目にあうかもしれない。それだけはなんとかして避けなければならない。
「……分かった、気をつける。そうだ、硫酸と硫化水素が俺をかばってホスゲンたちに……」
そう焦って言うと一酸化炭素の隣にいたヒ素が微笑んだ。
「大丈夫です!二人はカドミウムが説得して解放してもらいました。今はカドミウムと一緒に家にいると思います」
それを聞いて胸をなでおろすとともに、心の中でカドミウムにお礼を言う。
(家に帰ったら直接彼にお礼を言わないと)
一酸化炭素がタバコを取り出し、それに火をつけてから口を開いた。
「もうすぐ水銀がここに来るはずだ。そうしたらお前は水銀とともに青酸様のところへ向かえ。いいな?」
彼女の言葉に俺は頷いた。
「分かった。……それにしても、どうして俺がシアンタウンを破壊しに来た刺客だなんてことになったんだろう?」
そう考え込む俺を見て一酸化炭素が口を開く。
「誰かが悪意を持って流した噂を皆が信じたんだろうな。化学教師は化学の知識が豊富だ。それゆえにいろいろな化学反応を知っている。それを使って私たちを"殺して"、この世から消してしまおうとしていると化学物質たちは判断したようだ」
一酸化炭素の言葉に目を見開く。
「そんな……俺がそんなことするわけ」
「勿論分かっています」とヒ素が頷く。
「けれど、シアンタウンは元々人間への不信感が強い街です。そんな人間に自分たちが"殺される"と思ったら誰もが身を守るために躍起になるのは当然のことでしょう」
ヒ素の言葉に俺は納得した。確かに、余所者である俺のことをよく知らない化学物質たちが、どんなに根も葉もない噂だったとしても俺が刺客だという噂を信じてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
「とにかく、用心していくことだな。今は化学物質たちに説得は通じないと思え。お前が信頼できるのは、ここに来て直接お前が会った化学物質たちだけだ。その他の化学物質は皆敵だと思え」
一酸化炭素の強い語気の言葉に「分かった」と俺は頷いた。
「気をつけるよ。本当にありがとう、一酸化炭素、ヒ素」
そう言うとヒ素が照れくさそうに笑った。それを見て、一酸化炭素が煙を吐き出す。
「人間」
聞き慣れた声に振り返れば水銀が立っていた。そしてゆっくりとこちらに歩いてくる。
「カドミウムから聞いたが大変なことになってるらしいな。よくホスゲンに殺されずに済んだものだ」
そう感心するように俺を見る水銀に微笑んでみせる。
「一酸化炭素たちが助けてくれたんだ」
「そうか。……ありがとな」
水銀が軽くお辞儀をすると一酸化炭素とヒ素が銘々にそれに返した。
「気にするな。……ところで、青酸様はその人間に会うと言ってくれたのか?」
一酸化炭素の言葉に水銀が頷く。
「ああ、今すぐにでも会える」
そう答えてから俺の方を振り向いた。
「人間、鉱山に行く準備はいいか?」
「もちろん」と俺は力強く頷く。それを見てから水銀が軽く頷いた。
「よし。それなら……行くぞ」
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