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「おはようございます」
会いたくて夢にまで見た彼の爽やかな声を聞いて、私はぱっと顔を輝かせた。
「お、おはようございます!」
私は振り向くと同時に頭を下げた。かなり深くお辞儀をしてしまったので、持っていた教科書や参考書が腕から滑り落ち、ばさばさと床に落ちた。
「あらら、大丈夫?」
笑いながら彼――佐久間さくま先生がしゃがみ込み、廊下に散らばった教科書に手を伸ばす。
「す、すみません」
私も佐久間先生の近くにしゃがむと慌てて教科書をかき集め始めた。自分のせいで落ちてしまったというのに、私が何もしないで見ているだけというのはおかしいだろう。
佐久間先生の白くてなめらかな肌が目に入る。けれど私の手とは違い、男性らしいがっしりした手。その手に触れそうになる度に私はどきりとした。
「はい、どうぞ」
糸目をさらに細くして、佐久間先生が微笑んで教科書を私の方に差し出す。私は顔を赤くしながら教科書を受け取った。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
そう言ってきらりと光る白い歯を見せる。
(優しいなあ、佐久間先生……)
佐久間先生の笑顔が日光に照らされてきらきらと光って見える。私は朝からさっそく佐久間先生と話せたことに幸せを感じながらその場を後にした。

「あんた、最近気が緩んでない?」
職員室に入って開口一番隣の席に座っていたひじり先生に言われ、私はどきりとした。
「そ、そうですかね?」
そう惚けてはみたが、自分の気が緩んでいることなんて十分承知している。
「そうよ。佐久間なんていう人間に色目を使っちゃって」
「う……」
流石は先輩、全てお見通しだ。
聖先生は腰に手を当て、私をたしなめるよう口を開いた。
「いい?私達は崇高な使命があってここにいるのよ。それを絶対に忘れちゃ駄目!」
そう。私達がここ学校にいるのは、決して勉強を教えるためではない。私達は地球に住む全ての人間を救うためにここにいるのだ。
私達“天使”の仕事は人間界に潜む“悪魔”を探して退治することだ。
悪魔は人間の弱い心につけ込み、人間を甘い言葉で誘い、最終的に破綻させてしまう。天使はそんな悪魔の手から人間を守るために派遣された、天国の警察官のようなものだ。
数カ月前、私達の主である神より、この学校に悪魔が潜んでいるとの情報をいただいた。そのため先輩である聖先生と、私、雨束あまつかが偵察に行くことになったのだ。
しかし当の目的は忘れてないにしろ、私は偵察の間にすっかり担任の佐久間先生に一目惚れしてしまった。
スマートで人当たりがよく、教師からも生徒からも好かれている佐久間先生。彼に初めに抱いた感情は憧れだったものの、それが恋に変わるまでに時間は多くかからなかった。
しかし、私は天使で彼は人間。決して結ばれることはない。
そうは思いつつも、心のどこかで彼と恋人になれる日を私は夢見ていた。
先ほどの佐久間先生の清涼な笑顔を思い出し、私は思わずうっとりする。
「ちょっと雨束先生!聞いてるの!?」
聖先生に怒られ私ははっと我に返る。
「は、はい!聞いています!」
とっさに嘘をついたが先輩にはばれていたようで。
「嘘おっしゃい!全くあんたはもう……」
聖先生にたっぷり説教をされてから、私は教室に向かった。
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