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リュー
〈16〉
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お土産屋を後にした後、二人は昼食をとった。
「さて、この後どこに行くかな」
ぱらぱらとガイドブックをめくりながら磯部が呟く。
「お前、どこか行きたいところでもあるか?」
磯部に問われ、朝陽は麺をすすりながら考える。
「夕方までお前の自由にしていいぞ」
「夕方に何かあるんですか?」
朝陽が尋ねると磯部が頷く。
「夕日を見に砂山ビーチに行こうと思ってな。あそこの夕日は綺麗だぞ」
「へえ」と朝陽が相づちを打つ。磯部に手渡されたガイドブックの砂山ビーチのページには、確かに『夕日スポット』という言葉が大きく書かれていた。
ガイドブックにざっと目を通しながら(どこに行こうか)と考える。
しばらく朝陽はページをめくっていたが、あるページを開いたまま磯部にガイドブックを手渡した。
磯部がそれを受け取り「ああ」と声をあげる。
「イムギャーマリンガーデンか?いいな。じゃあ水着をとりに行くか」
磯部の言葉に朝陽は咀嚼しながら頷いた。
朝陽は備え付けのシャワーを浴びながら、先ほど見た海の中の光景を思い出していた。
二日目に行った新城海岸も吉野海岸も綺麗だったが、イムギャーマリンガーデンはとにかく魚の量が多かった。
少し目を動かせばこれでもかというほどたくさんの魚の姿が目に入る。どこを見ても魚だらけであった。まるで自然の水族館のようだった。
(どこの海岸もいいな)と朝陽は考える。沖縄の海はそれぞれの海岸にそれぞれの良さがある。どこの海岸が一番などととても決められない。
シャワーを止め、タオルで髪の毛を拭きながら外に出ると、日陰で磯部が炭酸飲料を飲んでいるのが見えた。
磯部は朝陽の姿を見つけると、
「ん、じゃあ夕飯食ってから夕日を見に行くか」と言った。
朝陽は頷くと磯部から鍵をもらい、車の方に向かった。
「こんな夕方からどこに行くんだ?夕飯はさっき食っただろ?」
リューに言われ朝陽が磯部に聞こえないようこっそり話しかける。
「夕日を見に行くんだ」
「ふーん」とリューが興味なさそうな顔をする。
それから少し経って、
「おい、若僧」とリューが再び声をかけた。
「どうした?」
朝陽が尋ねると、リューは眠たげな声で
「……少し疲れた。寝る」と言った。
「……そうか」
朝陽はリューの言動になんとなく異変を感じた。今までもよく眠たそうにはしていたが、自ら疲れたなんて弱気な発言はしなかったはずだ。
(今日もあちこち走ったからな)と朝陽は考える。連日のドライブによってかなりリューの体に負担がかかっているに違いない。
その証拠にリューはすぐに寝息をたて始めた。
(少し休ませてやらないとまずいかもしれないな)
朝陽はそう思い表情を曇らせた。
砂山ビーチには、アーチ状の大きな岩があった。岩に出来たトンネルは、まるで絵画のように景色を切り取っていた。
「今日は夕日が海に沈むところが見られそうだな。ラッキー」
磯部がそう言って口をヒュウとならす。
磯部の後をついてきた朝陽がアーチ状の岩を見て目を丸くした。
「朝陽、あそこから夕日が見えるんだ」
磯部が朝陽の方を振り返りトンネルを指差す。
「あそこからですか。……それはさぞかし綺麗でしょうね」
朝陽の言葉に「ああ、綺麗だぞ」と磯部が嬉しそうな顔をした。
「先輩はここの夕日を一度見たことがあるんですか?」
そう尋ねると磯部が顔を岩の方に向けながら頷く。
「ああ。前は少し曇っていたから、海に沈むところは見えなかったけどな」
「そうなんですか」と朝陽が相づちを打った。
のんびりとした沖縄音楽が流れてくる。多くの観光客が砂浜に座ったりカメラを用意したりして、その瞬間をいまかいまかと待っていた。
朝陽はおむむろにしゃがみこむと、指でさらさらと白砂をかき混ぜた。そして桜色の貝殻を見つけるとつまみ上げた。
それを手のひらに乗せて眺める。
『朝陽、これは何ですか?』
『朝陽さん!こんな所にも桜の花びらがありますよ!』
もしリオンとティーがここにいたらこんなことを言うに違いない、と朝陽は思ってふっと笑った。
(あいつらは貝殻なんか見たことないだろうからな)
朝陽はその貝殻を黙ってポケットに滑り込ませた。そして立ち上がる。
それを見計らったように磯部がポケットから手をだし、トンネルの方に向かって指をさした。
「ほら、見えてきたぞ」
朝陽は顔をあげて岩の方を見た。
半円状に切り取られたその場所から黄金色に輝く夕日が見えた。それが海に金箔をちりばめながらゆっくりと降下していく。
朝陽は半分無意識に携帯電話を取り出すとカメラを起動させた。そして、静かに夕日の情景を切り取った。
次第に空が赤く染まり、夕日の半分が海に潜った。
朝陽は息をするのも忘れてその情景にみいった。回りの観光客も夕日に釘つけになっていた。
人が大勢いると言うのに、その場はとても静かであった。聞こえるのはゆったりとした沖縄音楽と砂浜に打ち寄せる穏やかな波の音だけであった。
夕日が全て沈み、空に灰色が混ざり始めたとき、何かから解放されたかのように磯部がふうと息をはいた。そしてぽつりと言葉を漏らす。
「……綺麗だったな」
朝陽はまだトンネルの方を見たまま「はい」と頷いた。
(リオンとティーもここにいたら良かったのにな)と考えていた。
「さて、この後どこに行くかな」
ぱらぱらとガイドブックをめくりながら磯部が呟く。
「お前、どこか行きたいところでもあるか?」
磯部に問われ、朝陽は麺をすすりながら考える。
「夕方までお前の自由にしていいぞ」
「夕方に何かあるんですか?」
朝陽が尋ねると磯部が頷く。
「夕日を見に砂山ビーチに行こうと思ってな。あそこの夕日は綺麗だぞ」
「へえ」と朝陽が相づちを打つ。磯部に手渡されたガイドブックの砂山ビーチのページには、確かに『夕日スポット』という言葉が大きく書かれていた。
ガイドブックにざっと目を通しながら(どこに行こうか)と考える。
しばらく朝陽はページをめくっていたが、あるページを開いたまま磯部にガイドブックを手渡した。
磯部がそれを受け取り「ああ」と声をあげる。
「イムギャーマリンガーデンか?いいな。じゃあ水着をとりに行くか」
磯部の言葉に朝陽は咀嚼しながら頷いた。
朝陽は備え付けのシャワーを浴びながら、先ほど見た海の中の光景を思い出していた。
二日目に行った新城海岸も吉野海岸も綺麗だったが、イムギャーマリンガーデンはとにかく魚の量が多かった。
少し目を動かせばこれでもかというほどたくさんの魚の姿が目に入る。どこを見ても魚だらけであった。まるで自然の水族館のようだった。
(どこの海岸もいいな)と朝陽は考える。沖縄の海はそれぞれの海岸にそれぞれの良さがある。どこの海岸が一番などととても決められない。
シャワーを止め、タオルで髪の毛を拭きながら外に出ると、日陰で磯部が炭酸飲料を飲んでいるのが見えた。
磯部は朝陽の姿を見つけると、
「ん、じゃあ夕飯食ってから夕日を見に行くか」と言った。
朝陽は頷くと磯部から鍵をもらい、車の方に向かった。
「こんな夕方からどこに行くんだ?夕飯はさっき食っただろ?」
リューに言われ朝陽が磯部に聞こえないようこっそり話しかける。
「夕日を見に行くんだ」
「ふーん」とリューが興味なさそうな顔をする。
それから少し経って、
「おい、若僧」とリューが再び声をかけた。
「どうした?」
朝陽が尋ねると、リューは眠たげな声で
「……少し疲れた。寝る」と言った。
「……そうか」
朝陽はリューの言動になんとなく異変を感じた。今までもよく眠たそうにはしていたが、自ら疲れたなんて弱気な発言はしなかったはずだ。
(今日もあちこち走ったからな)と朝陽は考える。連日のドライブによってかなりリューの体に負担がかかっているに違いない。
その証拠にリューはすぐに寝息をたて始めた。
(少し休ませてやらないとまずいかもしれないな)
朝陽はそう思い表情を曇らせた。
砂山ビーチには、アーチ状の大きな岩があった。岩に出来たトンネルは、まるで絵画のように景色を切り取っていた。
「今日は夕日が海に沈むところが見られそうだな。ラッキー」
磯部がそう言って口をヒュウとならす。
磯部の後をついてきた朝陽がアーチ状の岩を見て目を丸くした。
「朝陽、あそこから夕日が見えるんだ」
磯部が朝陽の方を振り返りトンネルを指差す。
「あそこからですか。……それはさぞかし綺麗でしょうね」
朝陽の言葉に「ああ、綺麗だぞ」と磯部が嬉しそうな顔をした。
「先輩はここの夕日を一度見たことがあるんですか?」
そう尋ねると磯部が顔を岩の方に向けながら頷く。
「ああ。前は少し曇っていたから、海に沈むところは見えなかったけどな」
「そうなんですか」と朝陽が相づちを打った。
のんびりとした沖縄音楽が流れてくる。多くの観光客が砂浜に座ったりカメラを用意したりして、その瞬間をいまかいまかと待っていた。
朝陽はおむむろにしゃがみこむと、指でさらさらと白砂をかき混ぜた。そして桜色の貝殻を見つけるとつまみ上げた。
それを手のひらに乗せて眺める。
『朝陽、これは何ですか?』
『朝陽さん!こんな所にも桜の花びらがありますよ!』
もしリオンとティーがここにいたらこんなことを言うに違いない、と朝陽は思ってふっと笑った。
(あいつらは貝殻なんか見たことないだろうからな)
朝陽はその貝殻を黙ってポケットに滑り込ませた。そして立ち上がる。
それを見計らったように磯部がポケットから手をだし、トンネルの方に向かって指をさした。
「ほら、見えてきたぞ」
朝陽は顔をあげて岩の方を見た。
半円状に切り取られたその場所から黄金色に輝く夕日が見えた。それが海に金箔をちりばめながらゆっくりと降下していく。
朝陽は半分無意識に携帯電話を取り出すとカメラを起動させた。そして、静かに夕日の情景を切り取った。
次第に空が赤く染まり、夕日の半分が海に潜った。
朝陽は息をするのも忘れてその情景にみいった。回りの観光客も夕日に釘つけになっていた。
人が大勢いると言うのに、その場はとても静かであった。聞こえるのはゆったりとした沖縄音楽と砂浜に打ち寄せる穏やかな波の音だけであった。
夕日が全て沈み、空に灰色が混ざり始めたとき、何かから解放されたかのように磯部がふうと息をはいた。そしてぽつりと言葉を漏らす。
「……綺麗だったな」
朝陽はまだトンネルの方を見たまま「はい」と頷いた。
(リオンとティーもここにいたら良かったのにな)と考えていた。
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