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リュー
〈8〉
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室内に戻りタオルで足の裏を拭く朝陽の鼻孔に、スープのいい匂いが入ってきた。麺をゆでていた磯部が朝陽の方を振り返る。
「いきなり走り出してどうしたんだよ」
「車に忘れ物をしていたのを思い出して……」と朝陽が苦し紛れに嘘をついた。そして磯部の隣に立つ。
「何かお手伝い出来ることはありますか?」
「そうだな……。丼を出しておいてくれ」
朝陽は頷くと食器棚を開け、丼を二つ取り出した。
目の前でふわふわと白い湯気をあげる沖縄そばを見て、朝陽のお腹がぐうと鳴った。
そばといっても沖縄そばの麺はうどんのように太い。「だから魚介の旨味が凝縮されたスープと最大限絡みあうことが出来るんだ」と磯部が食べ始める前に教えてくれた。
「いただきます」
朝陽は手を合わせるとすぐに箸をとり麺を口に運んだ。それから休むことなくどんどん箸を動かしそばを平らげていく。
その様子を見ながら磯部が満足そうに笑う。
「うまいだろ?本場のそばはもっとうまいぜ」
「そうなんですね」と言いながら朝陽は明日の居酒屋を想像する。夕食を食べている最中だと言うのにお腹が減ってきてしまった。
(明日、楽しみだな)
朝陽はそう思いながら丼を傾けスープをすすった。
食器を洗い終え、テレビを見ながらぼんやりする朝陽に、磯部が話しかける。
「明日だが、西平安名崎の方に行ってみようと思う」
「西平安名崎……ですか」と聞きなれない言葉に朝陽が首をかしげる。
「ああ。それ以外にも池間島や下地島の空港にもな。下地島の空港は絶対に見ておいた方がいい。俺はあそこの海がどこよりも綺麗だと思っている」
沖縄のあちこちを訪れた磯部がそう言っているのだから、相当綺麗な海が見えることだろう。期待の眼差しで磯部を見つめる朝陽に、
「まあ晴れればの話だけどな」と磯部が保険をかけた。
翌日、磯部が庭に干した水着を取り込んでいる間に、朝陽は車に向かい冷房をつけた。そしてカーナビに『西平安名崎』と打ち込む。
「……本当に反応が悪いな」
年季の入ったディスプレイは、いちいち爪で強く押さないと文字の入力が出来ない。
朝陽が心の中で文句を言いながら一文字一文字入力していると、「ちっ」といらついたような舌打ちが聞こえてきた。
すぐに誰がやったかに気づき、
「リュー、どうしたんだ」と朝陽は尋ねる。
「隣のレンタカーが礼儀のなってない若僧でな」とリューが忌ま忌ましそうに言った。
「へえ、隣のレンタカーか」
朝陽はちらりと窓の外を見る。
朝陽達のすぐ隣に宿泊していたのは若いカップルだった。今駐車場にレンタカーが停まっていないところを見ると、朝早くにどこかに出掛けたらしい。今頃おしゃれなレンタカーを乗り回していることだろう。
「俺のことを『オンボロ』だとか『貧乏くさい』だとかめちゃくちゃに言いやがって。自分がハイブリッド車だからって鼻にかけてやがる」
そうぶつぶつと文句を言うリューに相づちを打ちながら、朝陽はやっとのことでカーナビに行き先を登録した。
「気にするな。俺はお前のほうが味があっていいと思うぞ」
(ディスプレイの反応の悪さだけはなんとかして欲しいけどな)
そう心の中で言葉を付け加えたとも知らず、朝陽の言葉に「ふん」とリューが鼻を鳴らした。
「お気遣いどーも」
そう嫌みったらしく言ってから、玄関から出てくる磯部を見やって続けた。
「それにしてもお前ら、男二人で旅行とか寂しいな」
リューの言葉に「それは言わないでくれ」と朝陽が苦笑した。
「いきなり走り出してどうしたんだよ」
「車に忘れ物をしていたのを思い出して……」と朝陽が苦し紛れに嘘をついた。そして磯部の隣に立つ。
「何かお手伝い出来ることはありますか?」
「そうだな……。丼を出しておいてくれ」
朝陽は頷くと食器棚を開け、丼を二つ取り出した。
目の前でふわふわと白い湯気をあげる沖縄そばを見て、朝陽のお腹がぐうと鳴った。
そばといっても沖縄そばの麺はうどんのように太い。「だから魚介の旨味が凝縮されたスープと最大限絡みあうことが出来るんだ」と磯部が食べ始める前に教えてくれた。
「いただきます」
朝陽は手を合わせるとすぐに箸をとり麺を口に運んだ。それから休むことなくどんどん箸を動かしそばを平らげていく。
その様子を見ながら磯部が満足そうに笑う。
「うまいだろ?本場のそばはもっとうまいぜ」
「そうなんですね」と言いながら朝陽は明日の居酒屋を想像する。夕食を食べている最中だと言うのにお腹が減ってきてしまった。
(明日、楽しみだな)
朝陽はそう思いながら丼を傾けスープをすすった。
食器を洗い終え、テレビを見ながらぼんやりする朝陽に、磯部が話しかける。
「明日だが、西平安名崎の方に行ってみようと思う」
「西平安名崎……ですか」と聞きなれない言葉に朝陽が首をかしげる。
「ああ。それ以外にも池間島や下地島の空港にもな。下地島の空港は絶対に見ておいた方がいい。俺はあそこの海がどこよりも綺麗だと思っている」
沖縄のあちこちを訪れた磯部がそう言っているのだから、相当綺麗な海が見えることだろう。期待の眼差しで磯部を見つめる朝陽に、
「まあ晴れればの話だけどな」と磯部が保険をかけた。
翌日、磯部が庭に干した水着を取り込んでいる間に、朝陽は車に向かい冷房をつけた。そしてカーナビに『西平安名崎』と打ち込む。
「……本当に反応が悪いな」
年季の入ったディスプレイは、いちいち爪で強く押さないと文字の入力が出来ない。
朝陽が心の中で文句を言いながら一文字一文字入力していると、「ちっ」といらついたような舌打ちが聞こえてきた。
すぐに誰がやったかに気づき、
「リュー、どうしたんだ」と朝陽は尋ねる。
「隣のレンタカーが礼儀のなってない若僧でな」とリューが忌ま忌ましそうに言った。
「へえ、隣のレンタカーか」
朝陽はちらりと窓の外を見る。
朝陽達のすぐ隣に宿泊していたのは若いカップルだった。今駐車場にレンタカーが停まっていないところを見ると、朝早くにどこかに出掛けたらしい。今頃おしゃれなレンタカーを乗り回していることだろう。
「俺のことを『オンボロ』だとか『貧乏くさい』だとかめちゃくちゃに言いやがって。自分がハイブリッド車だからって鼻にかけてやがる」
そうぶつぶつと文句を言うリューに相づちを打ちながら、朝陽はやっとのことでカーナビに行き先を登録した。
「気にするな。俺はお前のほうが味があっていいと思うぞ」
(ディスプレイの反応の悪さだけはなんとかして欲しいけどな)
そう心の中で言葉を付け加えたとも知らず、朝陽の言葉に「ふん」とリューが鼻を鳴らした。
「お気遣いどーも」
そう嫌みったらしく言ってから、玄関から出てくる磯部を見やって続けた。
「それにしてもお前ら、男二人で旅行とか寂しいな」
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