A happy drive day!

シュレディンガーのうさぎ

文字の大きさ
上 下
92 / 138
レーシィ

〈2〉

しおりを挟む
叶夜はエースの後ろで教習原簿に今日の日付を書き込む。
「……ふふっ」
不意にボンネットの中を覗きこんでいたレーシィが笑みを漏らした。不思議に思い車の後ろから覗きこむと、レーシィが必死で笑いをこらえているのが見える。
何故笑っているのだろうと考えてはっとした。
(……もしかしたら、エースが何か言っているのかも)
叶夜は辺りに他の教官や教習生がいないのを確かめてからレーシィに話しかけた。
「この車、何か言ってます?」
はっとしたようにレーシィが顔をあげた。そして叶夜の視線を受けて慌てたような声を出す。
叶夜は続ける。
「あなた、車の人型ですよね。ですからこの車、エースの声が聞こえているのかと思って」
レーシィが驚いたように叶夜を見た。そしてぎこちなく微笑む。
「え、ええ……。……ふふ、エースくん、ですか?今日は機嫌が悪いみたいですね」
レーシィの言葉に叶夜は首を捻る。
「機嫌が悪い……?いつもと変わりがないように見えましたけど……」
そう言うと
「あら、叶夜さんのために我慢していたのね。えらいわね」とレーシィがエースのボンネットをなでなでした。
「えーっと、何かありましたか?」
話の読めない叶夜が尋ねる。レーシィが顔を上げて叶夜を見た。
「昨日、エースくんに乗った教習生が練習コースの道から外れちゃったみたいですね」
レーシィに言われ、叶夜が記憶の糸を手繰る。
「……ああ!はい、第一段階の一教程目の教習生でしたからね」
初めて車に乗る教習生は、大体生まれたての小鹿のように危なっかしい。うまくハンドル操作や速度調整が出来ず、カーブを曲がりきれなかったり、歩道に乗り上げてしまったりするのは日常茶飯事だ。
レーシィが続ける。
「どうやら、それを見ていた他の教習車……エックスくんに『お前、歩道に乗り上げるなんてださいなー』とからかわれたみたいで……。それで、エースくんは『ださくないもん!』とすっかり拗ねてしまったみたいです」
レーシィの言葉に叶夜は苦笑いをした。
(教習車ってそんな会話をするんだ……)
叶夜はエースのリア・ドアを撫でながら優しく話しかける。
「エース、歩道に乗り上げたのは君のせいじゃないから、気にしなくていいんだよ?」
レーシィはふんふんとしばらく頷いたあと、
「『そうだけどからかわれるのは嫌だから、しばらくは第二段階の教習生がいい!』と言っています」と通訳した。
「あはは、そっか……」
叶夜は教習生名簿を頭の中で思い出す。残念ながらしばらく第一段階の教習生が続くようだ。
叶夜はまるで肩を叩くようにエースのボディーを叩く。
「まあまあエース。最初から皆が皆うまく運転出来るわけではないんだよ。練習をして、これからどんどん上手になっていくんだからね。それに付き合うと思って頼むよ」
叶夜が言うとエースが仕方なさそうにハザードランプを一回点滅させた。
「『はーい』だそうです」
レーシィはくすくす笑いながらそう通訳した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...