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レーシィ
〈2〉
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叶夜はエースの後ろで教習原簿に今日の日付を書き込む。
「……ふふっ」
不意にボンネットの中を覗きこんでいたレーシィが笑みを漏らした。不思議に思い車の後ろから覗きこむと、レーシィが必死で笑いをこらえているのが見える。
何故笑っているのだろうと考えてはっとした。
(……もしかしたら、エースが何か言っているのかも)
叶夜は辺りに他の教官や教習生がいないのを確かめてからレーシィに話しかけた。
「この車、何か言ってます?」
はっとしたようにレーシィが顔をあげた。そして叶夜の視線を受けて慌てたような声を出す。
叶夜は続ける。
「あなた、車の人型ですよね。ですからこの車、エースの声が聞こえているのかと思って」
レーシィが驚いたように叶夜を見た。そしてぎこちなく微笑む。
「え、ええ……。……ふふ、エースくん、ですか?今日は機嫌が悪いみたいですね」
レーシィの言葉に叶夜は首を捻る。
「機嫌が悪い……?いつもと変わりがないように見えましたけど……」
そう言うと
「あら、叶夜さんのために我慢していたのね。えらいわね」とレーシィがエースのボンネットをなでなでした。
「えーっと、何かありましたか?」
話の読めない叶夜が尋ねる。レーシィが顔を上げて叶夜を見た。
「昨日、エースくんに乗った教習生が練習コースの道から外れちゃったみたいですね」
レーシィに言われ、叶夜が記憶の糸を手繰る。
「……ああ!はい、第一段階の一教程目の教習生でしたからね」
初めて車に乗る教習生は、大体生まれたての小鹿のように危なっかしい。うまくハンドル操作や速度調整が出来ず、カーブを曲がりきれなかったり、歩道に乗り上げてしまったりするのは日常茶飯事だ。
レーシィが続ける。
「どうやら、それを見ていた他の教習車……エックスくんに『お前、歩道に乗り上げるなんてださいなー』とからかわれたみたいで……。それで、エースくんは『ださくないもん!』とすっかり拗ねてしまったみたいです」
レーシィの言葉に叶夜は苦笑いをした。
(教習車ってそんな会話をするんだ……)
叶夜はエースのリア・ドアを撫でながら優しく話しかける。
「エース、歩道に乗り上げたのは君のせいじゃないから、気にしなくていいんだよ?」
レーシィはふんふんとしばらく頷いたあと、
「『そうだけどからかわれるのは嫌だから、しばらくは第二段階の教習生がいい!』と言っています」と通訳した。
「あはは、そっか……」
叶夜は教習生名簿を頭の中で思い出す。残念ながらしばらく第一段階の教習生が続くようだ。
叶夜はまるで肩を叩くようにエースのボディーを叩く。
「まあまあエース。最初から皆が皆うまく運転出来るわけではないんだよ。練習をして、これからどんどん上手になっていくんだからね。それに付き合うと思って頼むよ」
叶夜が言うとエースが仕方なさそうにハザードランプを一回点滅させた。
「『はーい』だそうです」
レーシィはくすくす笑いながらそう通訳した。
「……ふふっ」
不意にボンネットの中を覗きこんでいたレーシィが笑みを漏らした。不思議に思い車の後ろから覗きこむと、レーシィが必死で笑いをこらえているのが見える。
何故笑っているのだろうと考えてはっとした。
(……もしかしたら、エースが何か言っているのかも)
叶夜は辺りに他の教官や教習生がいないのを確かめてからレーシィに話しかけた。
「この車、何か言ってます?」
はっとしたようにレーシィが顔をあげた。そして叶夜の視線を受けて慌てたような声を出す。
叶夜は続ける。
「あなた、車の人型ですよね。ですからこの車、エースの声が聞こえているのかと思って」
レーシィが驚いたように叶夜を見た。そしてぎこちなく微笑む。
「え、ええ……。……ふふ、エースくん、ですか?今日は機嫌が悪いみたいですね」
レーシィの言葉に叶夜は首を捻る。
「機嫌が悪い……?いつもと変わりがないように見えましたけど……」
そう言うと
「あら、叶夜さんのために我慢していたのね。えらいわね」とレーシィがエースのボンネットをなでなでした。
「えーっと、何かありましたか?」
話の読めない叶夜が尋ねる。レーシィが顔を上げて叶夜を見た。
「昨日、エースくんに乗った教習生が練習コースの道から外れちゃったみたいですね」
レーシィに言われ、叶夜が記憶の糸を手繰る。
「……ああ!はい、第一段階の一教程目の教習生でしたからね」
初めて車に乗る教習生は、大体生まれたての小鹿のように危なっかしい。うまくハンドル操作や速度調整が出来ず、カーブを曲がりきれなかったり、歩道に乗り上げてしまったりするのは日常茶飯事だ。
レーシィが続ける。
「どうやら、それを見ていた他の教習車……エックスくんに『お前、歩道に乗り上げるなんてださいなー』とからかわれたみたいで……。それで、エースくんは『ださくないもん!』とすっかり拗ねてしまったみたいです」
レーシィの言葉に叶夜は苦笑いをした。
(教習車ってそんな会話をするんだ……)
叶夜はエースのリア・ドアを撫でながら優しく話しかける。
「エース、歩道に乗り上げたのは君のせいじゃないから、気にしなくていいんだよ?」
レーシィはふんふんとしばらく頷いたあと、
「『そうだけどからかわれるのは嫌だから、しばらくは第二段階の教習生がいい!』と言っています」と通訳した。
「あはは、そっか……」
叶夜は教習生名簿を頭の中で思い出す。残念ながらしばらく第一段階の教習生が続くようだ。
叶夜はまるで肩を叩くようにエースのボディーを叩く。
「まあまあエース。最初から皆が皆うまく運転出来るわけではないんだよ。練習をして、これからどんどん上手になっていくんだからね。それに付き合うと思って頼むよ」
叶夜が言うとエースが仕方なさそうにハザードランプを一回点滅させた。
「『はーい』だそうです」
レーシィはくすくす笑いながらそう通訳した。
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