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夏のある日
〈2〉
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「ここね」
愛昼がシートベルトを外し素早く到着時間を書き込む。
「これまたひどい事故だったんですかね」
スイは背もたれに体を預け、腕を組んで顔をしかめた。
愛昼は飛び降りると事故現場となった交差点に急いだ。
しかしそこには何もなく、愛昼はきょとんとする。
「え……?」
そう驚いて呟く愛昼に、叶夜が後ろから話しかけた。
「あ、すいません。事故の続発を防ぐために、どちらの車も近くの駐車場に移動させました」
愛昼が驚いて振り返る。叶夜はそれを見て申し訳なさそうな顔をして
「勝手に色々してしまいすみません」と言った。
「あ、いえ……。ご協力ありがとうございます。それで、その車はどこの駐車場に?」
「こちらです」と叶夜が案内する。愛昼はその後を続きながら、そろそろ到着するだろう笹木に車が移動している旨を伝えた。
笹木が自家用車の運転手と話しているのを見ながら愛昼が振り向いた。そして、叶夜が自動車学校に電話し終えるのを見届けてから話しかけた。
「お時間おかけしますが、事故について詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか」
叶夜は快く頷く。
「ええ」
「ありがとうございます」と愛昼が頭を下げた。
愛昼が聞きこみの準備をしている間、叶夜は自家用車とバイクの方を見る。
(……あの二台も、何か話しているのかな)
叶夜はそんなことを考える。
一ヶ月前に知った新しい事実。『車は話せ、考えることが出来る』ということ。朝陽にそれを言われたときは混乱したが、叶夜自身が教習車、エースの声を聞いてからはそれを信じるようになっていた。
叶夜はじっと事故に遭った車二台を眺める。
(事故に遭ったとき、車はどんなことを思うんだろう)
残念ながら叶夜は車の声が聞こえないので、彼らが何を考え、何を言っているのかは分からない。
(朝陽さんがいれば分かるのにな)と叶夜は考える。
(……いや、逆に聞こえないほうがいいかも)
叶夜はすぐにそう思い直した。
エースが、叶夜が事故に遭わないよう色々なことをしていたのを見るに、車は運転手のことをとても大切に思っているのだろう。だとしたら、あのバイクは救急車で運ばれた運転手のことを非常に心配しているのかもしれない。ショックで呆然としているのかもしれないし、泣き叫んでいるのかもしれない。
そう思うと気分が暗くなった。事故は人間だけでなく、車まで傷つけるのだろう。
(事故には気を付けないと……)
愛昼は紙とボールペンを取り出すと叶夜の顔を見た。そして首をかしげる。
「大丈夫ですか?暗い顔をしていますが……」
愛昼に言われ叶夜ははっとする。
「あ……。すみません、大丈夫です」
心配そうな顔をして自分を見ている愛昼に叶夜は笑ってみせる。
「えーっと、事故について話せばいいんですよね」
「はい。よろしいですか?」
叶夜は「はい」と頷くと、事故現場の写真を見せながら、目撃したものをそのまま話し始めた。
愛昼がシートベルトを外し素早く到着時間を書き込む。
「これまたひどい事故だったんですかね」
スイは背もたれに体を預け、腕を組んで顔をしかめた。
愛昼は飛び降りると事故現場となった交差点に急いだ。
しかしそこには何もなく、愛昼はきょとんとする。
「え……?」
そう驚いて呟く愛昼に、叶夜が後ろから話しかけた。
「あ、すいません。事故の続発を防ぐために、どちらの車も近くの駐車場に移動させました」
愛昼が驚いて振り返る。叶夜はそれを見て申し訳なさそうな顔をして
「勝手に色々してしまいすみません」と言った。
「あ、いえ……。ご協力ありがとうございます。それで、その車はどこの駐車場に?」
「こちらです」と叶夜が案内する。愛昼はその後を続きながら、そろそろ到着するだろう笹木に車が移動している旨を伝えた。
笹木が自家用車の運転手と話しているのを見ながら愛昼が振り向いた。そして、叶夜が自動車学校に電話し終えるのを見届けてから話しかけた。
「お時間おかけしますが、事故について詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか」
叶夜は快く頷く。
「ええ」
「ありがとうございます」と愛昼が頭を下げた。
愛昼が聞きこみの準備をしている間、叶夜は自家用車とバイクの方を見る。
(……あの二台も、何か話しているのかな)
叶夜はそんなことを考える。
一ヶ月前に知った新しい事実。『車は話せ、考えることが出来る』ということ。朝陽にそれを言われたときは混乱したが、叶夜自身が教習車、エースの声を聞いてからはそれを信じるようになっていた。
叶夜はじっと事故に遭った車二台を眺める。
(事故に遭ったとき、車はどんなことを思うんだろう)
残念ながら叶夜は車の声が聞こえないので、彼らが何を考え、何を言っているのかは分からない。
(朝陽さんがいれば分かるのにな)と叶夜は考える。
(……いや、逆に聞こえないほうがいいかも)
叶夜はすぐにそう思い直した。
エースが、叶夜が事故に遭わないよう色々なことをしていたのを見るに、車は運転手のことをとても大切に思っているのだろう。だとしたら、あのバイクは救急車で運ばれた運転手のことを非常に心配しているのかもしれない。ショックで呆然としているのかもしれないし、泣き叫んでいるのかもしれない。
そう思うと気分が暗くなった。事故は人間だけでなく、車まで傷つけるのだろう。
(事故には気を付けないと……)
愛昼は紙とボールペンを取り出すと叶夜の顔を見た。そして首をかしげる。
「大丈夫ですか?暗い顔をしていますが……」
愛昼に言われ叶夜ははっとする。
「あ……。すみません、大丈夫です」
心配そうな顔をして自分を見ている愛昼に叶夜は笑ってみせる。
「えーっと、事故について話せばいいんですよね」
「はい。よろしいですか?」
叶夜は「はい」と頷くと、事故現場の写真を見せながら、目撃したものをそのまま話し始めた。
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