A happy drive day!

水族館にて

〈5〉

「次はどこに行くのですか？」
リオンが尋ねる。朝陽は昔の記憶に従って歩きながら
「今度はペンギンを見ようと思ってな」と言った。
「ペンギンですか？」
ティーが首をかしげる。
「ああ、たしかこの辺……ああ、ここだ」
迷いなく進む朝陽の後を二人は追う。
リオンとティーは室内に入って、同時にペンギンを見つけると声をあげた。
そこは他の場所より暗い場所だった。大きな水槽が壁一面にはまっており、その前にベンチが並べられている。その様子はさながら映画館だ。
水槽の中ではペンギンが岩の上をてこてこと歩いたり、水のなかを悠々と泳いだりしていた。
ティーは水槽に駆け寄っていくと、手すりから身を乗り出してペンギンを見た。
泳いでいたペンギンがティーの方にちらりと顔を向けた。ティーが触ろうと手を伸ばす。
リオンがその横に立って腕を組んだ。
ペンギンが弾丸のように水中を素早く左右に移動する。それをリオンは目で追った。
「こんなのがあったぞ」
朝陽が何かを手に持って近づいてくる。棒にヒラヒラしたものがついたそれは、まるで幣みたいだ。
「『ペンギンのおもちゃ』らしい。こうやって使うと……」
ヒラヒラがついている方を水槽に向けて振ると、一羽のペンギンが近寄ってきた。そしてそれを目で追い始めた。
「おー。興味津々だな」
朝陽が目を丸くして棒を振る。
「わ、私も……」
真似をしようと、おもちゃの入っている箱の方に走り出そうとするティーを引き留めて、朝陽が持っていたものを手渡す。
ティーはお礼を言って受けとると、ふるふるとおもちゃを振った。
ペンギンがそれを見てパクパクと口を開け閉めする。頭をひねったり水槽をつついたりして、なんとかそれを捕まえようとしている。
「エサだと思っているのかもな」
朝陽がその様子を面白そうに眺める。
「あ、そうなんですね。可愛い……」
ティーがおもちゃを振りながら楽しそうにその様子を見つめる。リオンは自分がそれをやりたいとは思わなかったが、おもちゃにつられるペンギンを楽しんで見ていた。

「お前ら、ずっと立っていると疲れるだろう。こっちに来て座れ」
ベンチに座っていた朝陽が、水槽の前からくっついて離れない二人を手まねいた。リオンとティーは朝陽の隣に腰かけて水槽を見る。
岩の上にいるペンギンが微動だにしないのを、ティーが興味津々で見つめる。
「朝陽さん、あれは置物でしょうか？」
朝陽はティーが指差した方を見て首を捻る。
「んー、多分生きていると思うぞ」
それを聞いてティーが感心したような顔をした。
「へえー、あんなにじっとしているなんてすごいですね」
（お前ら車もな）と朝陽が心のなかで呟く。
前のめりになって水槽を食い入るように見つめるティーをリオンは横目で見た。
さっきのショーの時もそうだが、こんなにキラキラした目をした彼女を見るのは初めてだった。
（まるでこの水族館に来て人が変わったようだ）とリオンは思う。
二人がちぐはぐに違うところを見ているのがなんとも面白くて、朝陽はふっと笑った。そして
（少し席をはずしてみるか）と考えた。
「トイレに行ってくる。お前ら、ここでじっとしておけよ」
朝陽の言葉にリオンとティーが銘々に頷いた。