A happy drive day!

シュレディンガーのうさぎ

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エース

〈8〉

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「そうだ!叶夜が車を運転しなければいいんだ!」
朝陽はそれを聞いてぽかんとする。
「何言ってんだ?お前」とエックスがあきれたように言う。
「だってそうでしょ?そもそも叶夜が車に乗らなければいいんだよ。そうしたら叶夜は絶対安全だよ!」
そううきうきして言うエースの言葉を聞きながら、朝陽が深くため息をついた。
「エースなりに色々考えているのよ」と黙って話を聞いていたセラが困ったように笑う。
「エース。そんなことをしたら叶夜さんは二度とお前に乗らなくなるぞ。それでもいいのか?」
そう言うとエースはまたはっとした。そして、
「ヤだ!そんなのヤだよ!」と騒ぎだした。
「だったら俺の言うことを聞け。いいか、事故は起こりうるが、滅多なことじゃ起きない。だから安心しろ」
「口で言ってもきっと分からないわよ」とセラが首を振りながら言う。
「ああ。だから身をもって知ってもらう」
朝陽はそう言うと叶夜に聞こえるよう大声で言った。
「叶夜さん!聞こえますか?」
「は、はい!」と突然呼び掛けられた叶夜が驚いて返事をする。
「これからその車に乗ったまま公道に出てくれませんか?そしてあちこちに行ってほしいのです」
またまたとんでもない要求に叶夜は目を丸くした。
「え?このままですか?でも……」
「あなたがその車から出るにはそうしなければいけないのです。その車は、あなたが車から降りても、あなたが車の中にいても事故に遭ってしまうかもしれないと考えている。そして、どうしたらあなたを守れるのだろうと混乱しているのです。だからあなた自らが運転して、事故なんて滅多に起きないということを証明して欲しいのです」
(『車が考えている』!?)
叶夜は頭が混乱してきた。そして共に、訳が分からないことばかり言う朝陽に怒りがわいてきた。叶夜は怒って朝陽に尋ねる。
「あなたは何を言っているんですか!?なんで車の考えていることなんて分かるんですか!?」
朝陽は半狂乱の叶夜に尋ねられ、どうしようかと考える。
(俺の能力のことを伝えるべきか……?)
朝陽はメリットとデメリットをそれぞれ秤に乗せた後、決断を下した。
「……あなたをさらに混乱させるようなことを言って悪いのですが」
朝陽は努めて冷静に話しかける。
「実は、私は車の声が聞こえるのです。あなたの教習車は……私はエースと名付けましたが、彼はあなたが車を運転すると事故に遭って死んでしまうと思っているのです」
叶夜は男の言葉を聞いて頭がくらくらしてきた。
(『車の声が聞こえる』って?)
何かの冗談だと思いたかったが、相手は至極真剣のようだ。
(この人、頭がおかしいんじゃ……?)
朝陽はとにかく話を進める。
「私は『事故はめったに起きないから心配するな』と言ったのですが……。彼はその言葉を信じられないようなのです。ですからお願いです。あなたがエースを運転して、その言葉が本当であると証明して欲しいのです」
朝陽の言葉が終わったあと、叶夜は必死に頭の中を整理しようとした。
叶夜の頭はすでにパンク寸前だった。
教習車に閉じ込められ何がなんだか分からなくなっていたときに、車に話しかける変な男が現れ、またその男が車の声が聞こえると言い出す。
(……僕、夢でも見てるのかな)
そう現実逃避したかったがそんな訳にはいかない。目の前にある車のフロントガラスや手に触れる座席のシートの感触が、それが夢ではないことをはっきりと分からせてくる。
ぼんやりとしている間にも携帯電話の向こうにいる男は
「おい、エース!叶夜さんを信じろ!」と叫んでいる。
(……とりあえず、この状態から抜け出さないと)
深く考えても今は仕方がない、と叶夜は結論付けた。ゆっくり考えるのはこの車の中から脱出してからだ。
叶夜は携帯電話を耳にあて、朝陽に話しかけた。
「あの、そうすれば僕はここから出られるんですか?」
携帯電話の向こうから「ええ、恐らく。いや、必ず助け出します」と強い声がした。
他に頼る相手もいないし、とりあえず今はこの男の言うことを信じるしかないようだ。
叶夜は決意を固めた。
「分かりました。どこに行けばいいでしょうか?」
「どこでもいいです。とりあえずあちこちを走ってください。エースが『事故がめったに起こらない』ということを信じるまで」
(随分曖昧だな)と叶夜は考える。
「あの……。その、エースが信じたかどうかってどうやったら分かるのでしょうか?」
朝陽が少し考えてから話す。
「そうですね。あなたには彼の声が聞こえませんから……あなたが運転に疲れて休憩したときや、どこかについたときなどに私に電話してください。そうしたら私から聞いてみることにます」
叶夜はとりあえずそうすることに決めた。今は藁にでもすがりたいところだった。
「分かりました。あちこち行ってみます」
「助かります。あなたのことは私から教習所の人に伝えておきます。ですから心配なく」
「何かあったら私に電話してください」と朝陽は締め括った。そして電話をきった。
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