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エース
〈7〉
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「おい、お前……。……エックス、こいつに話し掛けろ」
「エックスってなんだよ」と教習車が尋ねる。
「お前の名前だ。名前がないと呼びにくいからそう呼ばせてもらう。それで、お前がからかった教習車はエースと呼ばせてもらうことにする」
「エックスね、なかなかいい名前じゃねえか」とエックスが満足そうに言う。
「ここに話せばエースに聞こえる。さっきの話を訂正してくれ」
「はいはい」とエックスが面倒くさそうに返事をすると、携帯電話に向かってどなった。
「おい、エース!聞こえるか!?」
「うるさい!聞こえるよ!」とエースの声がする。
「昨日言ったことだけどな。あー……、あれは半分嘘だ」
そうエックスが言うとエースが怒った。
「また僕を騙したの!?」
「嘘は半分だけだって言ってんだろ!半分は本当だ!」
言葉の意味がよく分からないようで、エースが「どういうこと?」と首をかしげる。
「車から降りたら必ず轢かれるって訳じゃないってことだ。気を付けてたら轢かれないんだってよ」
エックスの言葉にエースは黙りこんだ。
「だから叶夜さんが気を付けていたら大丈夫ってことよ」とセラも言う。
エースは意味を理解するために黙っていたが、しばらくして口を開いた。
「でも、半分本当ってことは、事故が起きる恐れはあるってことでしょ?叶夜が死ぬ恐れがあるってことでしょ?」
エースが不安そうに言った。エックスがそれを聞いて顔をしかめ、朝陽を見て首を振る。
「事故は確かに起こりうる。けれど起きる可能性の方が少ないと思う。安心しろ。自動車学校の教官を勤めている叶夜さんが、車から降りたところで事故に遭うとは思えない」
朝陽がそう助け船をだす。
少しだけ声が聞こえている叶夜が、自分の名前を会話内に見つけて
(一体なんの話をしているのだろう?)と首をかしげる。
「でもやっぱり事故は起きるかもしれないんでしょ!?だったらもっと確実に安全な方法を選んだ方がいいよ。だってそうしたら叶夜は絶対に死なないんだもん」
そう言い張るエースに朝陽は頭を抱えた。
「そんなことをしたら叶夜さんは何も出来なくなってしまうじゃないか。大体、車の中が絶対安全って訳でもない」
朝陽の言葉にエースが固まったのが分かった。セラが苦い顔をする。
「とうとう言ってしまいましたわね」
「あーあ、俺は知らないからな」とエックスがそっぽを向く。
電話の向こうでエースが信じられないと言ったように呟いた。
「そんな、僕の中も安全じゃないなんて……」
茫然自失としているエースの声を聞きながら、朝陽は
(さて、どうしようか)と腕を組んだ。言いたいことは言ったが、後はどう落とし前をつけるかだ。
ふと朝陽の頭に一つの考えが浮かんだ。初めての試みのため、どうなるかは分からないがやってみなければ何も始まらない。結果が不確かなまま朝陽は話し出した。
「確かに車を運転することは常に危険と隣り合わせだ。でも、教習中に今まで一度も事故に遭ったことはないだろ?」
エースが頷く気配がする。
「教習生のように注意を払っていれば事故は起こらないってわけだ。だからお前が心配することはない。叶夜さんを信じろ」
「信じたって起きることは起きるよ」とエースが言い返す。
「今まではきっと偶然だったんだ。でも今日"その日"が来るかもしれない。そして叶夜が死んでしまうかもしれない。そう思うととても怖いんだ。だから僕は叶夜を僕の中に閉じ込めておきたかったんだ。でも……」
エースが、まるで子供がわがままを言うように泣き出した。
「僕の中も安全じゃないなら、一体僕はどうすればいいの?」
めそめそ泣くエースに朝陽があることを提案しようとしたとき、エースがはっとしたように声をあげた。
「エックスってなんだよ」と教習車が尋ねる。
「お前の名前だ。名前がないと呼びにくいからそう呼ばせてもらう。それで、お前がからかった教習車はエースと呼ばせてもらうことにする」
「エックスね、なかなかいい名前じゃねえか」とエックスが満足そうに言う。
「ここに話せばエースに聞こえる。さっきの話を訂正してくれ」
「はいはい」とエックスが面倒くさそうに返事をすると、携帯電話に向かってどなった。
「おい、エース!聞こえるか!?」
「うるさい!聞こえるよ!」とエースの声がする。
「昨日言ったことだけどな。あー……、あれは半分嘘だ」
そうエックスが言うとエースが怒った。
「また僕を騙したの!?」
「嘘は半分だけだって言ってんだろ!半分は本当だ!」
言葉の意味がよく分からないようで、エースが「どういうこと?」と首をかしげる。
「車から降りたら必ず轢かれるって訳じゃないってことだ。気を付けてたら轢かれないんだってよ」
エックスの言葉にエースは黙りこんだ。
「だから叶夜さんが気を付けていたら大丈夫ってことよ」とセラも言う。
エースは意味を理解するために黙っていたが、しばらくして口を開いた。
「でも、半分本当ってことは、事故が起きる恐れはあるってことでしょ?叶夜が死ぬ恐れがあるってことでしょ?」
エースが不安そうに言った。エックスがそれを聞いて顔をしかめ、朝陽を見て首を振る。
「事故は確かに起こりうる。けれど起きる可能性の方が少ないと思う。安心しろ。自動車学校の教官を勤めている叶夜さんが、車から降りたところで事故に遭うとは思えない」
朝陽がそう助け船をだす。
少しだけ声が聞こえている叶夜が、自分の名前を会話内に見つけて
(一体なんの話をしているのだろう?)と首をかしげる。
「でもやっぱり事故は起きるかもしれないんでしょ!?だったらもっと確実に安全な方法を選んだ方がいいよ。だってそうしたら叶夜は絶対に死なないんだもん」
そう言い張るエースに朝陽は頭を抱えた。
「そんなことをしたら叶夜さんは何も出来なくなってしまうじゃないか。大体、車の中が絶対安全って訳でもない」
朝陽の言葉にエースが固まったのが分かった。セラが苦い顔をする。
「とうとう言ってしまいましたわね」
「あーあ、俺は知らないからな」とエックスがそっぽを向く。
電話の向こうでエースが信じられないと言ったように呟いた。
「そんな、僕の中も安全じゃないなんて……」
茫然自失としているエースの声を聞きながら、朝陽は
(さて、どうしようか)と腕を組んだ。言いたいことは言ったが、後はどう落とし前をつけるかだ。
ふと朝陽の頭に一つの考えが浮かんだ。初めての試みのため、どうなるかは分からないがやってみなければ何も始まらない。結果が不確かなまま朝陽は話し出した。
「確かに車を運転することは常に危険と隣り合わせだ。でも、教習中に今まで一度も事故に遭ったことはないだろ?」
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「教習生のように注意を払っていれば事故は起こらないってわけだ。だからお前が心配することはない。叶夜さんを信じろ」
「信じたって起きることは起きるよ」とエースが言い返す。
「今まではきっと偶然だったんだ。でも今日"その日"が来るかもしれない。そして叶夜が死んでしまうかもしれない。そう思うととても怖いんだ。だから僕は叶夜を僕の中に閉じ込めておきたかったんだ。でも……」
エースが、まるで子供がわがままを言うように泣き出した。
「僕の中も安全じゃないなら、一体僕はどうすればいいの?」
めそめそ泣くエースに朝陽があることを提案しようとしたとき、エースがはっとしたように声をあげた。
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