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エース
〈6〉
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「どうやら屋内駐車場に駐車の練習をするために行っていたみたいね。教習生が一人だったから早めに帰ってきたんだわ」
朝陽は助かったと立ち上がると、その教習車の方に近づいた。
「なあ、少し話をしてもいいか?」
呼びかけられた教習車が怪訝そうに振り返る。
「あ?なんだ、あんた」
不審者を見る目で言う教習車に朝陽は続ける。
「お前、ここに停まっていた教習車をからかったな?」
教習車は朝陽の指さすところを見たあと、「ああ、まあな」と頷いた。
「それがなんだ?あんたに関係のある話なのか?」
ぶっきらぼうにいう教習車にセラが言う。
「あなたが適当なことを言ったせいで、あの子ったらすっかり怯えちゃって叶夜さんを中に閉じ込めているのよ!どうするつもりなの!?」
教習車はそれを聞いて一瞬ぽかんとしたあと、合点がいったように笑いだした。
「さっき騒がしいと思ってたけど、あいつ、そんなことをしてたのか?あはは、おっかしい」
悪びれる様子もなく、さもおかしそうに笑っている教習車にセラがさらに怒る。
「ちょっと、笑い事じゃないでしょう!どうするのよ、あなた何とかしなさいよね!」
「あいつのことだから、一日たったら忘れちまうよ」と笑いながらその教習車が言う。
「それに適当なことだとは言い切れないぜ?なんせその事故は本当に起こったんだからな。俺は可能性を話しただけだ」
教習車の言葉にセラはやれやれといったように首を振る。
「こういうやつなんですのよ、人間さん。全く自分が悪いことをしている自覚がないのですわ」
「だって悪いことをしてないからな。俺は警告してやっただけだせ?なあ、人間さんよ」
朝陽は黙って二台の意見を聞く。
「……まあ、確かにそういう事故は起こりうるが……。言い方や言うべき相手というものがあるだろう。あの教習車には言ってはいけなかったんだよ」
朝陽が続ける。
「確かに人間は事故を起こす。しかし、気を付けていれば起こらない事故もある。きっと、この前起きた事故は、車から降りた運転手も注意散漫だったんだろう。きちんと後ろから車が来ないか気を付けていれば、また、後ろの車の運転手も『運転手が降りてくるかもしれない』と思って間隔をとっていればそんな事故は起きなかったはずだ」
朝陽の言葉を今度は二台が黙って聞く。
「お前は事故が起こらなかった可能性を与えないまま、悪戯にあの教習車を怯えさせてしまった。そのせいで『車から降りたら死ぬ』という余りにも極端な考え方を植え付けてしまった。これは訂正するべきだ」
朝陽の理路整然とした意見に教習車はつまらなさそうな顔をすると
「ちぇっ、分かったよ。謝ればいいんだろ、謝れば」と言った。
「謝るというより訂正してほしい。お前の言う通り、そういうことは起こりうるからな。ただ、叶夜さんが気を付けていれば起きにくいことを伝えてほしい」
「『起きにくい』?それってかなり曖昧じゃないかしら。『絶対起きない』という保証はないの?」
セラの言葉に朝陽は首を振る。
「ああ。人間が動く限りはな」
それを聞いてセラがため息をついた。
「そんな不確実なこと、あの子が信じるとは思わないわ」
セラの言葉に教習車も頷く。
「全くだ。『絶対起きない』って言った方がいい」
朝陽は首を振る。
「本当のことを伝えた方がいい。嘘をつくとそれが嘘だと分かったときの衝撃が強いからな」
朝陽はそう言いながら携帯電話を取り出した。そして叶夜に電話を掛ける。
叶夜が電話に出るとすぐに話し始めた。
「あ、叶夜さん。今から私が言う通りにしてくれませんか?」
電話の向こうの叶夜が首をかしげるのが分かる。
「サイドミラーの近くに携帯電話を持っていってほしいのです。あなたは内容を聞かなくていいので、声が聞こえるところをサイドミラーに向けてください」
訳のわからない要求に叶夜は混乱するが、今は朝陽の言うことを聞いておいた方がいいと分かっていた。叶夜は黙って車のサイドミラーに携帯電話を近づける。
「おい、聞こえるか?」
朝陽が叫ぶように言うと、「聞こえるよ!何?」と教習車も叫ぶように答える。
「お前の隣の教習車がお前に言いたいことがあるみたいだ」
そう言って朝陽は携帯電話をその教習車のほうに向ける。
朝陽は助かったと立ち上がると、その教習車の方に近づいた。
「なあ、少し話をしてもいいか?」
呼びかけられた教習車が怪訝そうに振り返る。
「あ?なんだ、あんた」
不審者を見る目で言う教習車に朝陽は続ける。
「お前、ここに停まっていた教習車をからかったな?」
教習車は朝陽の指さすところを見たあと、「ああ、まあな」と頷いた。
「それがなんだ?あんたに関係のある話なのか?」
ぶっきらぼうにいう教習車にセラが言う。
「あなたが適当なことを言ったせいで、あの子ったらすっかり怯えちゃって叶夜さんを中に閉じ込めているのよ!どうするつもりなの!?」
教習車はそれを聞いて一瞬ぽかんとしたあと、合点がいったように笑いだした。
「さっき騒がしいと思ってたけど、あいつ、そんなことをしてたのか?あはは、おっかしい」
悪びれる様子もなく、さもおかしそうに笑っている教習車にセラがさらに怒る。
「ちょっと、笑い事じゃないでしょう!どうするのよ、あなた何とかしなさいよね!」
「あいつのことだから、一日たったら忘れちまうよ」と笑いながらその教習車が言う。
「それに適当なことだとは言い切れないぜ?なんせその事故は本当に起こったんだからな。俺は可能性を話しただけだ」
教習車の言葉にセラはやれやれといったように首を振る。
「こういうやつなんですのよ、人間さん。全く自分が悪いことをしている自覚がないのですわ」
「だって悪いことをしてないからな。俺は警告してやっただけだせ?なあ、人間さんよ」
朝陽は黙って二台の意見を聞く。
「……まあ、確かにそういう事故は起こりうるが……。言い方や言うべき相手というものがあるだろう。あの教習車には言ってはいけなかったんだよ」
朝陽が続ける。
「確かに人間は事故を起こす。しかし、気を付けていれば起こらない事故もある。きっと、この前起きた事故は、車から降りた運転手も注意散漫だったんだろう。きちんと後ろから車が来ないか気を付けていれば、また、後ろの車の運転手も『運転手が降りてくるかもしれない』と思って間隔をとっていればそんな事故は起きなかったはずだ」
朝陽の言葉を今度は二台が黙って聞く。
「お前は事故が起こらなかった可能性を与えないまま、悪戯にあの教習車を怯えさせてしまった。そのせいで『車から降りたら死ぬ』という余りにも極端な考え方を植え付けてしまった。これは訂正するべきだ」
朝陽の理路整然とした意見に教習車はつまらなさそうな顔をすると
「ちぇっ、分かったよ。謝ればいいんだろ、謝れば」と言った。
「謝るというより訂正してほしい。お前の言う通り、そういうことは起こりうるからな。ただ、叶夜さんが気を付けていれば起きにくいことを伝えてほしい」
「『起きにくい』?それってかなり曖昧じゃないかしら。『絶対起きない』という保証はないの?」
セラの言葉に朝陽は首を振る。
「ああ。人間が動く限りはな」
それを聞いてセラがため息をついた。
「そんな不確実なこと、あの子が信じるとは思わないわ」
セラの言葉に教習車も頷く。
「全くだ。『絶対起きない』って言った方がいい」
朝陽は首を振る。
「本当のことを伝えた方がいい。嘘をつくとそれが嘘だと分かったときの衝撃が強いからな」
朝陽はそう言いながら携帯電話を取り出した。そして叶夜に電話を掛ける。
叶夜が電話に出るとすぐに話し始めた。
「あ、叶夜さん。今から私が言う通りにしてくれませんか?」
電話の向こうの叶夜が首をかしげるのが分かる。
「サイドミラーの近くに携帯電話を持っていってほしいのです。あなたは内容を聞かなくていいので、声が聞こえるところをサイドミラーに向けてください」
訳のわからない要求に叶夜は混乱するが、今は朝陽の言うことを聞いておいた方がいいと分かっていた。叶夜は黙って車のサイドミラーに携帯電話を近づける。
「おい、聞こえるか?」
朝陽が叫ぶように言うと、「聞こえるよ!何?」と教習車も叫ぶように答える。
「お前の隣の教習車がお前に言いたいことがあるみたいだ」
そう言って朝陽は携帯電話をその教習車のほうに向ける。
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