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エース
〈1〉
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「おはようございます!」
「おはよう。今日も元気だね」
元気はつらつな教習生達のあいさつに要はにっこり笑って返す。
「要先生、今日も髪型決まってますねー」
「先生、彼女出来たー?」
教習生達のからかいに要は困ったような顔をして、早く移動するよう促した。
「はいはい、早く教習原簿持って行ってね。今日は学科?」
尋ねた教習生が首を振る。
「ううん。今日は技能!」
「そっか、安全運転でね」
「うん!頑張ります。先生も頑張ってね~」
そう言って教習生が手を振って走っていくのを見て、要も
(よし、頑張ろう)とこっそり拳を作って気合いを入れた。
「要くん、今日もモテモテねえ」
遠くで顛末を見ていた永谷が笑いながら近づいてくる。
「あはは、モテモテっていうよりいじられてるってほうが正しいんですけどね」
要が永谷の方を見て困ったように頬を掻く。
「要くんは優しいからね。でも優しすぎは駄目よ?安全運転のために言うことは言わないと」
永谷の言葉に「はい、気をつけます!」と要はしっかりと返事をした。
要の勤めている□□自動車学校には、今日も多くの人間が運転免許を取得するためにやって来る。要は普通自動車の運転を教える教官としてそこで働いていた。
目の前で明るく笑う女性は永谷で、要よりも年配の教官である。経験を多く積んできたからか運転の教え方がうまく、厳しいながらもお茶目な人で教習生達の人気者だ。
また誰にでも分け隔てなく接するため、教官からの人望も厚い。少々お節介なのが玉に傷だが、そこも含めて要は永谷を尊敬していた。
「そうだ、要くん。これ、今日の担当教習生名簿。よろしくね」
永谷が思い出したように手をたたき、要に一枚の紙を渡す。要は礼を言って受けとった。
名前と教習生の顔を頭の中で一致させながら紙にざっと目を通す。そして永谷と別れると担当車の方に向かって歩いて行った。
腕時計を見ると、一限目が始まるまで少し時間がある。要は“日課”をしようと担当車の前に立った。
彼の日課というのは、担当車に不具合がないか確認をすることだ。毎朝、教習が始まる前に教習所内に設けられた練習コースを一周する。そこでもし何か異常があったらすぐに点検する。直るものだったら直す。直せないものだったらその教習車は使わない。そうすることで教習生が安全に運転の練習をすることが出来る。日課は要が教官になったときから欠かさずしていることであった。
要はボンネットを開けてブレーキ液があるか、そして次にライトがつくかを確認した。
それが終わると車に乗り込み、鍵をつけてエンジンをかけると車を発車させた。
のんびりと練習コースを走る。何度も何度も教習生に付き合って走っているので、目をつぶっても運転出来るくらいだ。坂道や狭路コース、踏切を通過すると、気をつけなければいけないことや注意しなければいけないことが頭の中に自然と浮かんでくる。
特に車に気になるところはなく、無事にコース一周は終わった。
元の位置に車を戻す。
(よし、異常はなし)
今日も無事仕事が始められそうだ。
要はほっとしてエンジンをきる。そして、荷物を抱えて車から降りようとドアハンドルに手をかけ外側に押した。
「え?」
しかし扉は開かなかった。
(ロックを解除し忘れたかな?)
そう思ったがロックは解除されている。どこかに引っかかったのかと、がちゃがちゃとドアハンドルを乱暴に押したり引っ張ったりしたが、車体が揺れようとも扉が開く気配は全くない。
(まずい)と要はすかさず思った。自分の顔がさっと青くなり、冷や汗が流れるのが分かる。
要は教習車に閉じ込められてしまった。
「おはよう。今日も元気だね」
元気はつらつな教習生達のあいさつに要はにっこり笑って返す。
「要先生、今日も髪型決まってますねー」
「先生、彼女出来たー?」
教習生達のからかいに要は困ったような顔をして、早く移動するよう促した。
「はいはい、早く教習原簿持って行ってね。今日は学科?」
尋ねた教習生が首を振る。
「ううん。今日は技能!」
「そっか、安全運転でね」
「うん!頑張ります。先生も頑張ってね~」
そう言って教習生が手を振って走っていくのを見て、要も
(よし、頑張ろう)とこっそり拳を作って気合いを入れた。
「要くん、今日もモテモテねえ」
遠くで顛末を見ていた永谷が笑いながら近づいてくる。
「あはは、モテモテっていうよりいじられてるってほうが正しいんですけどね」
要が永谷の方を見て困ったように頬を掻く。
「要くんは優しいからね。でも優しすぎは駄目よ?安全運転のために言うことは言わないと」
永谷の言葉に「はい、気をつけます!」と要はしっかりと返事をした。
要の勤めている□□自動車学校には、今日も多くの人間が運転免許を取得するためにやって来る。要は普通自動車の運転を教える教官としてそこで働いていた。
目の前で明るく笑う女性は永谷で、要よりも年配の教官である。経験を多く積んできたからか運転の教え方がうまく、厳しいながらもお茶目な人で教習生達の人気者だ。
また誰にでも分け隔てなく接するため、教官からの人望も厚い。少々お節介なのが玉に傷だが、そこも含めて要は永谷を尊敬していた。
「そうだ、要くん。これ、今日の担当教習生名簿。よろしくね」
永谷が思い出したように手をたたき、要に一枚の紙を渡す。要は礼を言って受けとった。
名前と教習生の顔を頭の中で一致させながら紙にざっと目を通す。そして永谷と別れると担当車の方に向かって歩いて行った。
腕時計を見ると、一限目が始まるまで少し時間がある。要は“日課”をしようと担当車の前に立った。
彼の日課というのは、担当車に不具合がないか確認をすることだ。毎朝、教習が始まる前に教習所内に設けられた練習コースを一周する。そこでもし何か異常があったらすぐに点検する。直るものだったら直す。直せないものだったらその教習車は使わない。そうすることで教習生が安全に運転の練習をすることが出来る。日課は要が教官になったときから欠かさずしていることであった。
要はボンネットを開けてブレーキ液があるか、そして次にライトがつくかを確認した。
それが終わると車に乗り込み、鍵をつけてエンジンをかけると車を発車させた。
のんびりと練習コースを走る。何度も何度も教習生に付き合って走っているので、目をつぶっても運転出来るくらいだ。坂道や狭路コース、踏切を通過すると、気をつけなければいけないことや注意しなければいけないことが頭の中に自然と浮かんでくる。
特に車に気になるところはなく、無事にコース一周は終わった。
元の位置に車を戻す。
(よし、異常はなし)
今日も無事仕事が始められそうだ。
要はほっとしてエンジンをきる。そして、荷物を抱えて車から降りようとドアハンドルに手をかけ外側に押した。
「え?」
しかし扉は開かなかった。
(ロックを解除し忘れたかな?)
そう思ったがロックは解除されている。どこかに引っかかったのかと、がちゃがちゃとドアハンドルを乱暴に押したり引っ張ったりしたが、車体が揺れようとも扉が開く気配は全くない。
(まずい)と要はすかさず思った。自分の顔がさっと青くなり、冷や汗が流れるのが分かる。
要は教習車に閉じ込められてしまった。
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