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ティー〈第一部〉

〈1〉

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「よう、リオン」
玄関からスーツ姿の男が現われた。服装はきっちりしているが、残念なことにあちこちに寝癖がついている。その寝癖を直そうと手で押さえながらその男、関朝陽が駐車場にとめてあった車に声をかけた。
「おはようございます」
車の窓から青色の髪の青年、リオンが顔を出した。そして朝陽の服装を見る。
「仕事ですか?」
「ああ。依頼者の家まで近いからお前は使わないよ」
そうあくびをしながら答えた朝陽に
「分かりました。お気をつけて」とリオンが表面上だけの挨拶を述べた。
朝陽が車窓を鏡代わりにしてネクタイを整える。
「ああ。じゃあ行ってくる」
リオンが車の窓を閉めながら「いってらっしゃい」と朝陽を見送った。

朝陽は住宅街を歩いていた。日曜日のため、住人達はどこかに遊びに行っているようで辺りは静まり帰っていた。
携帯電話のマップを見ながら依頼主の家を探す。
ようやく見つけ出した赤いピンで示された家は一軒家であった。
朝陽は表札を確認するとチャイムを押した。そして声の調子を確かめてから
「こんにちは。『車なんでも相談所』の関です」と挨拶をした。
暫く経ってから扉ががちゃりと開き、中から二十代の女性が顔を出した。
ジャージ姿の女性に朝陽は一瞬困惑したが、「園田梨乃さんでしょうか」と尋ねる。
「ええ、そうです」
梨乃がいかにも不機嫌そうに頷く。
朝陽は周囲に視線を巡らせた。そして駐車場に目を止める。
自動車の隣に一台のバイクがおいてあった。それは光沢のある黒をした、格好良いバイクであった。
「具合が悪いのはあのバイクでしょうか?」
「ええ」と梨乃が朝陽に負けずぶっきらぼうに言う。
「なるほど。不具合はどのようなもので?」
梨乃が腕を組んでけだるそうに話し出す。
「不具合ってもんじゃないんです。そもそもエンジンがかからないんですよ」
朝陽は胸ポケットからメモ帳を取り出す。そしてシャープペンシルの頭を数回押しながら尋ねる。
「いつからそのような状態に?」
「いつからって、買った当初からですよ。前のバイクがぶっ壊れちゃったから、新しいバイクとしてあれを買ったんです。あーあ、お金がなかったからって中古車にしたのは失敗だったなあ」
ため息をつく梨乃を横目に朝陽はメモをとる。
「……バイクから変な音がした、という経験はありませんか?」
朝陽が尋ねると梨乃は
「ないです」ときっぱりと答えた。
朝陽は『例の音なし、または聞こえなかった可能性』とメモをとる。
梨乃が足を組み替えながらいらだたしそうに口を開く。
「あー、もう腹立つ。壊れてると嫌だからちゃんと店で試乗もしたし、購入した後もあのバイクに乗って帰ったっていうのに」
「その時は動いたんですか?」
朝陽の問いに梨乃が頷く。
「ええ。エンジンが動かなくなったのは持って帰ってきた翌日からです。すぐに中古車販売店に電話かけてバイクの点検してもらったんですけど、どこもおかしいところはないって言われて。もー、友達とツーリングに行く予定だったってのに、最悪ですよ」
梨乃はそこまで言って大きくため息をついた。
「その中古車販売店の名前と電話番号を教えてもらってもいいですか?」
メモをとりながら頼むと梨乃は奥に引っ込み、紙切れを持ってきて朝陽に手渡した。
「ありがとうございます」
朝陽は紙切れをしまい、書き留めたメモの内容を目で追う。
「試乗の時と中古車販売店の帰り道の時はエンジンが動いて走ったのに、その翌日から動かなくなった……」
(一体どういうことやら)と考え込んでいる朝陽を見ながら梨乃が問う。
「ねー関さん、どうです?直ります?あのバイク」
朝陽はちらりとバイクの方を見てから言った。
「直るとは言い切れませんが……。まあとりあえず色々やってみます。あのバイクを暫くお借りしても?」
「いいですよ。持っていっちゃってください」
持ち主の許可が出たので朝陽はバイクに近づくと、サイドスタンドを払った。
そしてハンドルをつかむとゆっくりと引っ張って行った。
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