11 / 11
最終話◇オーク、帰る◇
しおりを挟む帰りの道中は連れが増えた。
俺、勇者、もうすぐ十になる息子、食人鬼、牛の魔物、さらに北の国の騎士だ。
勝手に元魔王にくっついてきたミノタウロスはともかく、騎士の奴には悪いことした。
魔国との戦争が無くなったお陰で、軍は縮小、奴は失業だってよ。
しかし本人が言うにはあまり気にしていないらしい。
あんまり戦争自体が好きじゃないんだと。
ま、アイツ、びっくりするくらいに弱いからな。
結局、騎士の家名も打っちゃって、ハンサムゆえに纏わりついていた女どもも打っちゃって、俺はただの村人になる! なんてほざいてくっついて来た。
だからアイツは、北の国の騎士でなく、今じゃただのハンサムな騎士だ。
良い奴なんだが、実は勇者並にオツムが弱いのかも知れないな。
何も魔物の村の村人にならなくても良いだろうに。
◇◇◇◇◇
変なメンバーになったが、せっかく嫁も息子も一緒だから、ちょっと多目に遠回りのルートを選んだ。
久しぶりに寄った西の国で、あの紳士的な警備隊の男に出会った。
俺と勇者でぶっ飛ばした軍は、あれから再建される事はなかったそうだ。
そうなると、またしても俺のせいで失業者を多数出したかと、少し冷や汗かいたが平気だそうだ。
西の国はあの頃、貪欲な王と貴族の方針で、他国への侵略の為に軍を大きくしていたらしく、食料自給率に無理が出始めていたらしい。
国の規模に不釣り合いな軍が瓦解したお陰で、失業した元軍人どもと、奴隷から解放された亜人どもは全て、農業や漁業や鉱業なんかの、腹が膨れるか懐が潤うかの産業へと回されたらしい。
割を食ったのは、戦争・侵略で私服を肥やそうとしていた王と貴族だけ。
主だった貴族は投獄、王は強制的に代替わり。
跡を継いだ新王は、凡庸ではあるが貪欲とは掛け離れているそうだ。
なんだそれ、最高の展開じゃないか。
勿論、最初の数年は大変だったらしいが、ここの所は漸く落ち着いたそうだ。
正直言って、ホッとした。
誰かの役に立つつもりが、国一つドン底に叩き込む所だった。
ま、結果オーライだ。
◇◇◇◇◇
西の国を離れて南下しているんだが、最近ハンサムな騎士とミノタウロスの様子がおかしい。
お互いにソワソワとお互いをチラ見するし、あの五月蝿かったミノタウロスはやけに大人しくなった。
「アイツらどうかしたのか?」
「発情期だろ」
「違うわ、きっと恋よ」
元魔王と勇者がそう言うが、なんの事かよく分からん。
「アイツら男同士だろう」
「何言ってるの? 男は彼だけじゃないの」
勇者がハンサムな騎士を指差してそう言う。
なに? ミノタウロスって……
「女の子よ?」
なんてこった。
全然気付かなかったよ。
あんな頼もしい女は初めてだ。
頬を桃色に染めたハンサムな騎士の言い分だ。
そりゃそうかも知れんが……、いや、良いんだ。
人族の嫁を貰った魔物が、魔物に惚れた人族の事をどうこう言えたもんじゃないよな。
◇◇◇◇◇
随分と南下し、そろそろ東進しようかという所で、急に勇者が真顔で言った。
「この辺りはホント久しぶりだわ」
「詳しいのか?」
俺はこの辺りは初めてだから、俺と一緒に旅する前の事だな。
「もう二十年以上も前だから、記憶と違うかも知れないけど……」
そうだな。
言っちゃ悪いが、オマエのそういう所にはあまり期待していない。
初めて出会った時も、迷子で行き倒れてたからな。
「この先の森のね、そのさらに向こうに、魔物に襲われた村がある筈よ」
ふん、嫌なこと思い出させるなよ。
四度の生のうちで最も苦い思い出だな。
元魔王の奴も、俺と同じ思いなのか変な顔してやがるぜ。
「おい、なぁ豚マン」
「なんだ?」
元魔王が前方の森を指差して言う。
「あの森、なんとなく見覚えがねぇか?」
見覚えと言ったって、俺はこの辺りは初めての筈……
……と思ったんだが、見覚えあるどころか、前世で俺が、何十年にも渡って自分を鍛えた森だった。
「私はこの森で、お師匠さまに剣を教えて頂いたの」
◇◇◇◇◇
俺んちだ。
木で作った家は、所々腐って相当ガタがきていて当時の面影はない。
しかし間違いない、あの二人と一緒に過ごした俺んちだ。
廃墟を前にポロポロと零れる涙を、ハンサムな騎士に不思議そうに見られたが、ボロッボロと流れる元魔王の涙に掻き消された。
「あの男の家だ、間違いない。おい豚マ――」
尚も言い募ろうとする元魔王に掌を向けて遮る。
……何も言わないでくれ。
もう少しこのままいさせてくれ。
あの日、二人を置いて逃げた俺は、その後どれほど自分が強くなろうと、この村に訪れる事はしなかった。
二人を、村人を、弔ってやりたい想いはあったが、どうしても足が向かわなかった。
自分だけ逃げた罪悪感なのか、二人を喪った現実を見つめたくなかったのか、それはもう自分でも判らない。
「……おい、喋るぞ」
立ち尽くす俺を置いて、荒れた村をウロウロしていた元魔王が戻って来てそう言った。
「記憶通りの場所に、恐らくだが、あの男の骨を見つけた。どうする?」
「…………どこだ?」
無言で歩き出した元魔王、その後をのそりと俺も歩く。
ふらつく足取りの俺を、勇者と息子がそっと腕を支えて一緒に歩く。
そういやコイツ、俺を剣王の生まれ変わりだと思ってるんだったな。
普段は割りとポンコツの癖に、勘の良い奴だ。
元魔王に案内された所は、家からそう離れていない、あの森へ向かう道すがら。
お世辞にも綺麗な白とは言えない、茶色く燻んだ人の骨。
「あの男は、間違いなくこの場所で死んだ。恐らくは、あの男だろう」
俺は、その骨に向かい膝を地につけて顔を寄せた。
ふふ、これが物語か何かなら、感じるものがあったりするんだろうな。
……だが俺には、これがあの人の骨かどうか、全く判らない、感じられない。
しかし、どちらでも良かった。
俺は、ただ、とにかく、謝りたかった。
「…………あの時、助けられなくて……、一人で逃げて……、ごめんなさ――」
「そいつぁ違う」
「ごめんじゃないわ」
跪いて、頭を下げようとする俺を、両脇から元魔王と勇者が邪魔をした。
二人の顔を見上げる様に、涙に濡れた顔を上げる。
「違うだろ」
「違うでしょ」
再び骨に向き直り、最も伝えなければいけない言葉を、口にした。
「…………ありがとう、お父さん」
父の骸は何も言わない。
しかし、なんだろうな、スッキリしたような、なんか、そんな気がした。
◇◇◇◇◇
母の骨は見つけられなかった。
というか、どの骨が母親か特定出来なかった。
全ての骨を集めて弔った。
きっと父と母も、久方ぶりに一緒になれて喜んでいる事だろう。
「俺はここに残る」
夜、村のすぐ近くで野営し、焚き火を囲んでそう宣言した。
「残ってどうするの?」
「さあな。まだ考えてない」
「なら、ここに村を……ううん、国を作りましょう」
国?
「そう、国!」
「私は貴方と離れる気はないから、必然的に私も残る。もちろんこの子も残る。私たち三人じゃ寂しいから、この人たちも巻き込む。でもそれだけじゃ寂しいから……、だから国!」
……また俺の嫁が無茶言い出した。
勝手に巻き込まれた他の連中、ポカンとしてるぞ。
が、悪くないかも知れないな。
人族の国でもない、魔物の国でもない、俺たちの国。
そうだな。
思ったよりも、良いかも知れないな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は今世で満足しきった。
勇者と、子らと、元魔王やハンサムな騎士たち、連中と生きて、満足した。
俺たちの国は、近在の国ともやり取りして、色んなことに口出して、煙たがられたりもしながら、なんやかんやで大きくなった。
魔物も人族も、亜人もなんでもござれのごった煮の国。
良い国になったよ。
勇者も先に逝き、子らももう、俺の手は必要ない。
何一つ未練もない。
恐らく、俺の転生はもう、今生で最後、打ち止めだろう。
もう俺のことを語る事はないと思う。
では、さらばだ。
じゃあな。
◇◇◇◇◇
むう、目が開かん。
体も動かない。
まさかと思ったが…………
…………するのかよ、転生。
ま、良い。
俺はこの転生も受け入れよう。
今生もきっと、面白いだろうぜ。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
【完結】転移魔王の、人間国崩壊プラン! 魔王召喚されて現れた大正生まれ104歳のババアの、堕落した冒険者を作るダンジョンに抜かりがない!
udonlevel2
ファンタジー
勇者に魔王様を殺され劣勢の魔族軍!ついに魔王召喚をするが現れたのは100歳を超えるババア!?
若返りスキルを使いサイドカー乗り回し、キャンピングカーを乗り回し!
経験値欲しさに冒険者を襲う!!
「殺られる前に殺りな!」「勇者の金を奪うんだよ!」と作り出される町は正に理想郷!?
戦争を生き抜いてきた魔王ババア……今正に絶頂期を迎える!
他サイトにも掲載中です。
初級魔法しか使えない?だったら極めます
ブレイブ
ファンタジー
魔法こそが絶対の世界の中、少ない魔力しか持っていない、ウィザード学園に通う少年。ヘレティック。皆が中級、上級の魔法が使える中、彼は初級の魔法しか使えないが、諦めず、魔法を極める事にした
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
最後まで読みました。
また転生するんだΣ(๑°ㅁ°๑)!?
最後までお面白かったです😊💕
青空さま!
感想、最後まで読んで頂き、ありがとうございます〜♪
青空さんの恋愛もの読んで楽しく勉強させて頂いております〜ღゝ◡╹)ノ♡
感想ありがとうございます!
ちょうど真ん中の六話辺りからバタバタっと面白くなっていきますんで!
4話目の感想です。
|ェ)・`)チラックマ🌟
すごく面白い🎶💐
青空さん!
感想ありがとうございます〜
四話五話過ぎから、キャラもちょっと増えてオススメっす!