67 / 71
番外一「誑かす妖狐」
しおりを挟む「……ここんとこホント平和だね、ごっちゃんなっちゃん」
「きゅきゅー!」「きゅー!」
黒狐の里でヨルが暴れたあの日から大体三年、わっちらお葉ちゃんの尾っぽ四人はあの日、妖狐になったんだ。
みっちゃんは知らないけど、わっちとごっちゃんとなっちゃん、三人はあのまま消えても特に文句も不満も無かったんだよ。
だけどね。
こうして妖狐になって、お葉ちゃんや良庵せんせと一緒に暮らせるのはとっても楽しいんだよねぇ。
「び――びぇーー!」
数えでもうすぐ二歳になる良子嬢がわっちの背中で泣き出しちゃった。
「ごっちゃん! ちょいと化けて手伝っておくれ!」
「わ――わわわ分かった!」
ごっちゃんは最初に狐の姿で熊五郎棟梁に見つかっちゃって、なっちゃん同様、デロデロに甘い顔で可愛がられちゃったもんだからさ、普段あんまり人の姿にならない様にしてるんだ。
なんでかごっちゃんの人の姿は丁稚の小僧さん。だけどわっちら三人、もう尾っぽじゃなくて妖狐だからさ、あれからはちゃんと見た目も少しずつ育ってるんだよ。
「よいしょ!」
「ありがとごっちゃん! さぁ良子嬢! 雪隠行くよ!」
凄いよねえ。ちゃんとオムツが汚れる前に自分で泣いて教えてくれるんだもん。人の赤ちゃんって賢いんだねぇ。
せんせとお葉ちゃんが診察の日は、大体こんなして三人で子ども二人を世話してるんだ。
もうすぐ三歳の葉太ちゃんも良子嬢も、ほっぺぷにぷに可愛くってしょうがないんだよ。
せんせが道場の日はね、わっちのぼーいふれんどもやって来るんだよ。
ほら、あれあれ。
屁っ放り腰で木刀振るう、ちょいと可愛い顔したあの男の子。
それにしたってちっとも剣術の腕は上がんないなぁ。
「しーちゃん! 居るだか!? オラ団子買って来ただ!」
それにもう一人、大きな体で額に汗して駆け込んできた男の子。
ちょうど道場終わりの定吉ちゃんと、団子の包みをぶら下げた与太郎ちゃん。
二人ともさ――うひひ――わっちにぞっこんなんだって。
妖狐は大体ハタチそこそこの最盛期で成長止まるんだ。自分で言うのもなんだけど、このまま育てばわっちも美人になるの間違いなし。
けど今のわっちはちょっと育って見た目十五歳くらい。だから定吉ちゃんと同い年ってことにしてるんだよ。
与太郎ちゃんは三つ上の十八歳。賢安寺の先代寺男さんが引退して、今じゃ立派な一人前の寺男。
定吉ちゃんは小さいけれど地に足ついた商いが評判の小間物問屋の跡取り息子。
将来性と顔の造作だと定吉ちゃんなんだけど、あの屁っ放り腰が頼りなくってさ。
方や与太郎ちゃんはと言うと、見た目とお頭はどうしようもないんだけど、真面目だしわっちに尽くしてくれるし――
――それに何より、わっちが妖狐だって知ってるのに好いてくれてる。
そんな変態、良庵せんせと賢哲さんくらいだと思ってたから驚きだよね。
でもなぁ、与太郎ちゃんって……わっちとシチと比べてさ、どっちが可愛いか決めらんないって言ったんだよなぁ。
縁側に三人でわっちを挟んで座ってさ、与太郎ちゃんが買ってきてくれた団子を食べる。美味しい。もっちもっちと食べ終えて、ずっと気になってたこと聞いてみたんだ。
「ところで二人はさ――」
「なんだいしーちゃん?」
「どうしただしーちゃん?」
「どうしていっつも二人一緒でわっちに会うの?」
前から不思議だったんだよね。いっつも定吉ちゃんの道場終わりに三人でこんなして会ってるんだもん。
わっちの言葉に二人が顔を見合わせて、先に口を開いたのは定吉ちゃん。
「抜け駆け厳禁なんだ」
「そだ。抜け駆け厳禁。せめてもしーちゃんが十六んなるまでは」
「年が明けたらオイラもしーちゃんも十六。そこからが本当の勝負!」
「んだんだ。定吉ちゃんとそう決めてあんだ」
あらら。男の子って変なとこで団結するんだね。
でもなんか、ちょいと可愛いな、って思っちゃった。
だから二人に順番にニコッと微笑んで、さっと手伸ばしてそれぞれの手を握ってあげたらさ、二人揃って顔真っ赤っか。可愛い~。
でもさ、二人には悪いんだけど――
わっちの男を見る目、相当厳しいよ。
なんてったってめちゃくちゃカッコ良かった男の人知ってるからね。
良庵せんせと……聞いた話だけど賢哲さんも。
出来る事ならあの二人くらいにカッコ良くなってくんなきゃ。
ってそれじゃなかなか良い男見つけらんないだろうなぁ。
でもま、まだまだ長い残りの余生。
色んな男誑かしながら、ぷらぷら気長に探すとしよっかな。
◇◆◇◆◇
「お――おぃっ! 番外三つやるっつうから一つは俺らの出番だよな!?」
「それがさ賢哲さん、次も菜々緒たちじゃないんだって!」
「なんでだよ! 俺あんな頑張ったじゃねえの!」
だって菜々緒ちゃんたちの話だと子作りばっかになっちゃうから外れたんだってさ。
「そ――ん――な事ね――ぇこともないな。ホントだな菜々緒ちゃん」
「否定できないねー。だってそれが菜々緒たちの仕事だもん!」
「俺なんてたまにあっこの芯が痛えもんよ」
年中励んでなんかもう結構いっぱいポコポコ産んだらしいよ菜々緒ちゃんとこ。
黒狐の里に若い男いないかな?
一度覗きに行ってみるのも良いかもしんないなぁ。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる