82 / 103
76「ジン、一騎討ち」
しおりを挟む「なに・コルトなの?」
「俺様の名は! アド・コルト! しかしなんでコルトだと分かった!? Pourquoi!?」
Pourquoiは、何故? ですね。
「どことなくフルに似てるからさ」
「そっ、そうか!? へへっ、フルの奴と俺様が似てるってか? ふへへっ」
額の上部に角のある、アド・コルトと名乗った厳つめの魔族は、そう言って嬉しそうにはにかみました。
ちょっと香ばしそうな雰囲気は似てますけど、綺麗めなフルとは顔やスタイル全然似てませんよ、なんて言ったら怒られそうですね。
「で? アドおじさんが俺らの相手してくれんの?」
「Pourquoi! なぜ俺様がフルの伯父だと分かった!?」
「……なんとなく、だよ」
ジンさんは伯父のつもりで言ったわけではないようですよ、アドおじさん。
「まぁそんな事は良いじゃねえの。とっととやろうや」
「うむ、その意気や良し。まとめて相手をしてやろうではないか!」
「舐めんじゃねえ。俺一人で充分だっつうの。手ぇ出すなよオメエら!」
言うや否や、ジンさんがアドおじさん目掛けて丘を駆け降ります。
アレクが何かを言おうとしましたが、肩をすくめて諦めたよう。
「じゃ僕らは魔物を担当しよっか」
アレク達のいる丘と森の入り口との中央あたり、そこでぶつかり合ったジンさんとアドおじさん。
アドおじさんの後方に待機していた魔物の群れは、二人を避けつつ丘へと殺到します。
「リザ! ジンの壁なしだから忙しくなるよ! 気をつけて!」
「ええ! 望むところです!」
二人はそれぞれが魔物へと当たり、時には立ち位置を替え、また時には背中合わせで魔物を屠っていきました。
良いですねぇ。そういうの私の好みですよ。
少し下がって援護するレミちゃんがなんだか羨ましそうに眺めていますね。
ごめんなさいね、ロンへのバフも強かったらご一緒できたんですけどね。
ところでジンさんは平気でしょうか?
「こ、の……クソオヤジが! けっこうやるじゃねえの!」
「人族の割りになかなかやるじゃないか! ガハハハ!」
お互いに繰り出したパンチがかち合って距離を取り、お互いがお互いの実力を讃えていました。
なんだかアレですね。
戦いが終わったら仲良くなってたりしそうな二人ですね。
でも実際に良い勝負のようですよ。
アドはガードもせずにジンさんのパンチを頬で受け、それを背筋で堪えてパンチを返し、それをまたジンさんも頬に受けますが同じく堪えてみせました。
それを何度も繰り返してお互いに少し膝を震わせつつも、倒れるならばせめて相手が倒れてから、とでもいうような我慢比べを楽しんでいるかの様です。
ジンさんは身体強化も身体硬化も当然使っています。素のアドおじさんの強さがよく分かるというものですね。
「そいつは抜かねえのかよ」
少し目を回したジンさんが、クイッと顎でアドが腰に下げた剣を示します。
「Tromper野郎! 馬鹿な事言うな! 無手の相手には無手、それが面白いんだろうが。貴様もそう思うだろう?」
「――思わねえよ。俺はな、全力の相手には全力、それを面白いと思う奴なんだよ。だから抜け」
「ぶ、Bravo! ならば心配するな。俺様は剣士ではない。こんなものはな――」
剣を鞘ごと引き抜いて、アドおじさんがそれを後ろへ放り捨てました。
「――こうしてやるのよ! 俺様の全力はコイツよ!」
両の拳を握りしめ、それをジンさんへ突き出して示してみせます。
「なら安心だ。おう、とことんやろうぜ」
ジンさんもニヤリと笑んでみせました。
再び二人は戦い、というより、どつきあいに突入しました。
コルト一族にも色々なタイプがいらっしゃいますねえ。
「もう少しだよ! リザ頑張って!」
「アレク――こそ! 油断禁物ですわ!」
リザの事に注意が行っていたアレクの背後、ひっそりと近付いていた虫型の魔物へリザが風の刃を飛ばしてその首を刎ね飛ばします。
「――リザ! ありがと!」
「うふ、いつでも助けますからね――、せぇいっ!」
アレクへ一つ微笑んで、リザはまたすぐに戦斧を振り回して魔物を一匹切り裂きました。
こちらは連携も上手く機能し始めましたしなんとかなりそうですね。
そうなりますと、やっぱりジンさんの方が気になりますね。
と思って意識をそちらへやると――
ごつぅぅぅん! っと盛大に鈍い音が轟きます。
そして、ふらり、ふらりふらり、と千鳥足の二人が同時にバタンっと仰向けに倒れました。
「……オメエ、良い石頭してやがんなぁ」
「貴様も……な」
開いた口が塞がりませんが、これはこれで、なんと言うか……異種族間の友情が芽生えた、的な、そんな――
「もう良い」
一言だけ呟いたレミちゃんが、かつてアレクをふん縛った魔力のヒモで二人を一緒くたに縛り上げました。
「「Pourquoi!?」」
二人は『なんで!?』なんて言って納得いかない様ですが、やっぱりそうですよねぇ。
さすがはレミちゃん。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる