71 / 103
65「わたくしが諦めても」
しおりを挟む「やっぱり今のわたくしとデートしても楽しくありませんか?」
「――え!? なんで!? 楽しいよ!?」
二人は女神ファバリンの大木の足元、街の広場で話していました。
最近なにかと話題の二人ですからね、それなりに目立ってますから大きな声だと筒抜けですよ。
「ならば良いんですけど……」
「ほんとだよ! 楽しんでるから!」
アレクはそう言いますけどね、確かに以前の『リザ好き好き大好き死ぬほど愛してる』のアレク程には熱量を感じませんもの。
私でそうなんだから、もちろんリザだってそれは感じているでしょうね。
「……う、うーん。やっぱり嘘は嫌だから正直に言うよ」
「……はい。伺います」
「本当に楽しくない訳じゃないんだよ。ただ、あの、ごめん……気を悪くしないでね。その、大好きな友達と遊んでるみたいな、そんな感じの『楽しい』なんだ……」
うん。
正直によく言ったとね、私なんかはアレクを褒めてやりたいと思いますよ。
リザもよく分かっていたんでしょう。
目を閉じて、こっくりと頷いていますもの。
以前アレクは、オフショルリザの剥き出しの肩周りを見て理性を失いかけ、実際に失い拉致という暴挙に出たりしました。
ここのところのアレクは、言い方はおかしいですけど、紳士的で物足りませんもの。
「ごめんね、リザ。決して今のリザが嫌いな訳じゃないんだ。前のリザを好き過ぎたんだ」
「謝らないで下さいませ! それを分かってて、自分からこの姿のままでいるのですから! ……わたくしこそごめんなさい!」
少しの間、どちらも何も話しません。
ただ見詰め合っていましたが、不意に俯き口を開いたのはアレクです。
「貴女のその長く美しい紅髪、紅髪によく映える肌理細かな緑色の肌、僕の倍はありそうな肩幅、なんでも噛み砕けそうな逞しい顎、力強い筋肉、その全てが愛おしい」
俯いたままでそう言ったアレクが顔を上げ、リザへニコリと微笑みました。
「覚えてる?」
「ええ、もちろん。忘れるはずがありません」
アレクがリザへ放った初めての告白ですね。
ずいぶん前の気がしなくもないですけど、兎の月の事ですから先月の事なんですよね。
ちなみに今はドラゴンの月。
「リザはあの時、全然信じてくれなくてさ。突き飛ばされちゃったんだよね」
たはは……、と照れた思い出し笑いをしてしまうアレク。はにかむ姿がとても可愛いですね。
「あっ! あの時は――その、本当にごめんなさい!」
「良いの良いの、謝って欲しくてとかじゃないからね。ただね、僕はさ、やっぱりあの頃のリザが一番好きだよ、ってね。もう一度伝えたいな、って思ったから」
ここだけの話、アレクの趣味って変わってますよね。
だって、二人の周りには誰もいませんが聞き耳を立てているアイトーロルの民たち、特に男性トロル達がアレクの言葉にウンウンウンと頷きまくっていますもの。
「……分かって、います……。本当に、ありがたいお言葉だとわたくしも思うの、ですけど――」
一旦言葉を切ったリザ、少し溜まった涙を拭って続けました。
「――わたくしは、この姿のままで貴方を……わたくしに振り向かせたい……。けれど……大変、虫の良い……はな、……し……ですけ、ど」
「リザ。怖がらずになんでも言って。僕はちゃんと聞くよ」
「……ありがとう……ございます――」
一度深呼吸をして、両手で涙を拭って仕切り直し。
「この姿のままで貴方を振り向かせたい。けれど、それをわたくしが諦めた時、もし元の姿に戻ったとしても……大変虫の良い話ですけれど、わたくしを嫌わないでいてくれますか?」
「嫌わない、誓うよ」
これ以上ない程に真面目な顔のアレクが、一つも揺らぎを見せない声音でそう言ってのけました。
これは惚れますわ。
また再び、リザの瞳へ涙が溜まっていきますが――
「でもさ!」
――と続けたアレクの反語にびくりとリザが反応します。
「リザが振り向かせてくれても、元の姿に戻ったとしても、どっちの姿のリザでもさ、僕は大好きなリザと居られるって事だね! 僕、最高なんじゃない!?」
パァッと明るい表情でそう言ったアレクに、一つの曇りも見られません。本当に本心で言っているらしいですね。これはもっと惚れてしまいますわ。
「僕はリザを待つよ。だから、慌てないで」
「……アレクったら――」
二人はまた昨日の様に手を取り合って、お腹が鳴るまでそこで見詰め合っていました。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる