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33「リザをデートに誘うのは」
しおりを挟むリザと深夜にお話しした日からの数日間、特にこれと言って変わった事もなく過ぎています。
あの晩、別れ際のリザへは、変身能力やそれ以外の事でも私に聞きたいことがあれば深夜に庭園へおいでなさいと伝えはしましたが、あれ以来深夜にあそこへリザが現れることはありませんでした。
あんまり役に立たなくて残念でしたけど、とりあえずは食事も摂る様にはなりましたし、少しは役に立ったと思う事にしましょうかね。
リザはいつも通りに警備や新人訓練の仕事に従事し、ロンもかつての様に一介の冒険者として依頼を受けたりのギルド仕事に精を出し始めました。
アレク達はというと、三番亭付近で待ち伏せしようとするレミちゃんをジンさんが肩に担いで運ぶ様にして、再び魔の棲む森へと調査へ出ています。
いたって平和ですね。
リザの周りで言えば、ようやくカルベと話す機会があって、デートで放置した件をちゃんと謝れたんですけどね。
何を勘違いしたのかカルベがね――
「もっとバルクを育ててから、もう一度デートに誘います!」
――なんて宣言していました。
せっかくリザ好みのスタイルをしているカルベなんですけど、努力の方向を間違えているんですよね。
もちろんリザはそのままで良いと告げるには告げたんですよ。けれどカルベもトロルの男、バルクなしには自分に自信が持てないんでしょうね。
トロル的にはリザの美的感覚の方がおかしいんですから、こればっかりはしょうがないんでしょう。
そして今日のリザはギルドで新人訓練です。
以前ほどの食欲はないようですが、きちんと昼食も摂ってからギルドへ赴きました。
「あら。カコナさんじゃないですか」
「あ! リザ姫さま! 今日はリザ姫さまが先生なの?」
「ええ。ニコラが続くと新人冒険者の方が減っちゃうそうなので、わたくしの出番が増えるそうですの」
ニコラは厳しすぎると有名になっていますからね。ニコラが講師役をする日は目に見えて受講者が減ってしまうらしいんです。
もちろん、冒険者の生存率を上げるために、ニコラなりに愛を持って厳しくしてるんだと思いますけどね。
数日ぶりの再会を笑顔で喜んだ二人でしたが、カコナが不意に黙り込み、じっとリザを見詰めたあとで口を開きました。
「リザ姫さま、何かあったの? 元気ないみたいだけど」
「え……? いえ、何もありませんよ。わたくしはほら――」
リザが右手首を左手で掴み、両腕や胸にグッと力を籠めて見せました。
迫力のある良いサイドチェストですけど……いつもに比べるとちょっとお肌にハリがないかしら。
「ね、この通り。いつも通りに元気ですよ」
「だったら良いんだけど……無理してない?」
カコナも良い子ですよね。リザもカコナの事を気に入ってる様なんですけど、あのざっくりしたフレンドリーな感じが良いんでしょうね。一国の姫相手にタメ口ですし。
「してませんしてません! ホント平気ですよ!」
リザはさらに力こぶを両腕に作って見せてニコッと微笑みました。
「ところでカコナさん。今日はまた新人訓練ですの?」
「いやぁ、それがさ。この前みんなで一緒に森行ったじゃない? そん時にさぁ――」
あの時、私が思ったのと同じ事をカコナも思ったらしいのです。
戦闘主体の冒険者ではなく、斥候技能主体の冒険者でやっていこうと。
私もそれが良いと思います。特別弱くはないですけど、こと戦闘においてカコナには特筆すべきところもありませんでしたし。長所を伸ばす考え、私は好きですよ。
「だから今日は魔力操作の訓練受けに来てて、リザ姫さまの訓練じゃないの。ごめんね」
「あら残念ですね。それじゃまた今度、ですね」
そろそろ時間だと、それぞれが訓練場へと移動しかけたその時、カコナがリザを呼び止めて元気よく言いました。
「リザ姫さま! 今日の訓練終わったらデートしよう! ワタシと!」
「え、デートですか? わたくしとカコナさんとで?」
「そ! 女同士デート!」
あらあら。カルベでなくてカコナがデートに誘いましたよ。
まさか百合百合しないでしょうね――なんて言ってみたりして。
こういう時は、てへぺろ、とか言うんでしたっけね。
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