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32「リザとファバリン」

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 女神ファバリンはトロルだったのです――

 それを聞いて驚いた顔のリザは、嬉しい様な嬉しくない様な、どこか複雑な表情をしています。
 どうしたのでしょうね。

 もっと喜んでくれるかと思ったのですけど……。

「女神さまは凄いですね……。それに比べて、同じトロルの姫であるわたくしは……」

 ああ、そういうこと。リザは真面目すぎていけませんね。

『そんなに卑下する事もないでしょう。わた――ファバリンがよそに首を突っ込み出したのって五十歳くらいからですよ。貴女なんてこれからじゃないですか』

「お婆さまはお詳しいんですね」

『――っ、ほ、ほら、ファバリンも女神と言ったって私と同じお化けですからっ。お化けのネットワーク的な、ね。なにかそういうやつですよ』

 ……別に隠さなくても良いんですけど、リザの祖母でやっていこうと決意した手前、なんとなく慌てて誤魔化しちゃいました。


『それでね。お話しの本題なんですけど』

「はい、お婆さま」

 リザは体の小さい私に合わせて、膝をついて背を曲げて、視線を揃えてじっと私の目を見てくれます。

 良い娘よねぇほんと。お婆ちゃん、嬉しくなっちゃう。

『ファバリンは古の、かつてのトロルだという事は分かりましたね。彼女はその変身能力を何度となく使っていました』

「ええ、その様ですね」

 コクリ、とリザが小さく頷きます。

『ファバリンの姓はアイトーロル。かつてこの国の姫であり王女でした。貴女はその直系にあたるわけです』

「女神さまの……」

『でね。恐らくですが、貴女にもその、変身能力が使えるだろうと思うのです』

「…………変身能力が……」

 あら? あまり驚きませんね。

 わ、わたくしにも変身能力が!?

 とか言ってくれるかと思ってたんですけど。


『あまり驚きませんね?』

「そう……ですね。なんとなく、お話の流れ的にそうかも知れないなと、ぼんやり考えていましたから」

 賢いわねぇ。
 というか、私の話し方が下手だったのかしら。
 きっとどっちもでしょうね。

『貴女にも変身能力があるのは間違いないのです。ただ、それが使えるかどうかですけれど、私の考えが正しければ……貴女なら使える筈です』

「……そう、ですか。けれどどうしてそれをわたくしに?」

『近ごろの貴女が色々と悩んでいる様でしたからね、少しでも心の重荷が減らないかと思いまして』

「…………」

 リザが私の言葉を飲み込んで、目を閉じて心で咀嚼するように考え込んでしまいました。
 そんなに悩ませてしまうと思っていませんでした。

 今のリザ本人は醜いと思っている自分の姿、対して自分が美しいと思う姿、そのギャップを埋める手段もありますよ、と励ましてあげたかったんですけど。

『あ、あんまりね。難しく考えなくても良いのですよ。変身しなさいって言ってる訳ではないのですから』

「……そうですね。せっかくお婆さまが教えて下さいましたけれども……」

 私の投げ掛けをしっかりと吟味した様子のリザが、やはり少し言いにくそうに口を開きました。

「変身も魅力的ですけれど、わたくしがトロルの姿から人族の姿になり美しくなったとしても、それは……わたくしなのでしょうか」

『――そ、それは――』

 痛いところを突かれました。
 それはまさにリザの言う通り。いかにトロルの変身能力により姿を変えたとしても、当然それは仮の姿です。

 これはちょっと、私の考えが安易過ぎましたね。

『リザ、貴女の言う通りです。私の考えが甘かったわね』

「あ、いえ、そんな事ありませんわ。わたくしの為を思って仰って頂いたものと思いますし――」

 ちょっとだけ、ほんの一拍ためたリザが言います。

「魅力的なお話しだと思ったのも本当ですから」

 ペロリと舌を出してそう言ったリザは、ニコリとはにかんでそう言ってくれました。

 今のままの貴女も魅力的だとね、私なんかはそう思いますよ。
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