上 下
31 / 103

27「アレクの実力」

しおりを挟む

 若い魔族から高らかに叫ばれた声が木々に木霊こだまし――、

『エクセレーントォ――セレーントォ――ェーントォ――ントォ――トォ、ォ、ォ……』

 ――すっかりと聞こえなくなると同時くらい、リザとアレクがデルモベルトのお化けロン・リンデルへ向かってキツめの視線を投げつけました。

 視線に乗せた気持ちを私なりにイメージして文字に起こしますね。大体合ってると思いますのよ。

(……こいつ、なに? 僕、聞いてないよ?)

(いや俺も知らん。こいつは俺の策とは関係ない)

(ど、どうしますの? わたくしはこのまま斧を構えていれば良いのですか!?)

(えっと……えっと、どうするロン!?)

(と、とにかくエリザベータ姫は警戒を、アレクと俺はとりあえず進めるぞ)

(なんとなく分かった!)


 叫び終えた後の魔族の青年、筋肉量バルクで言えばバルク派とは言い難いスリムな体型。
 それでも脱げばそこそこ引き締まってそうな、なんとなくそう思わせる様な良い姿勢。

 彼は感極まったかご自分の体に腕を巻きつけ自分で自分を抱く様にし、恍惚とした表情で立ち尽くしたまま微動だにしません。

 どうやら三人はその隙にを進める事にした様ですね。


彷徨さまよえる魔王デルモベルトの魂よ! 再び僕があの世に送ってやる! 喰らえ!」

 アレクは高く跳び上がり、回転しながら腕輪精霊武装をタッチ、取り出したレイピアを手にデルモベルトへと急降下。

『ぐぅっ……ぐわぁぁぁああ!』


 アレクはデルモベルトの背後にシタッと着地すると同時、レイピアを腕輪へと仕舞って言います。

「ばいばい、魔王デルモベルト」

『さ、さらば、勇者アレックスよ……』

 ピカーっ! と光を放ったデルモベルトの体。
 その一瞬のち、光の消えたそこにデルモベルトの姿はありませんでした。


 何度も言いますけどね。
 ホントに二人の芝居、学芸会レベルなんですよ。
 分かってて見てる私は笑い転げるのを我慢しているぐらいですから。

 同じように分かってる筈のリザなんですけれど、なぜかカコナやチヨさんと一緒になって手に汗握っているのが微笑ましいです。

 そしてさらに――


「ここにいたのか! 探したぞアレク!」

「ロン! やっと追いついたか!」

 息急いきせき切って木立の中から現れたロンが、しれっとアレク一行に合流を果たしてみせます。

 もうコレ、私には面白すぎてどうしましょうね。



 しかし一転、お芝居感のなくなったアレクが口を開きました。

「さて、と。じゃ僕はこの魔族を殺さなきゃだから、リザたちは下がっててくれる?」

「……え、あ、そうなのですか? けれど何かわたくし達にお話しがあって見えられたのでは――」

「あるかも知れないね。でも魔族だからね、聞かずに殺すのが一番だよ」


 ニコリ、と曇りも一つの屈託もない笑顔でそう言ったアレクが、腕輪に触れてさらに言います。

「下がってて。危ないよ」

 いつもの声音と全く変わりませんが、有無を言わせぬ迫力がありました。
 これが大国アネロナ擁する勇者の迫力なんですね。

 僅かにビクリとしたリザをいざなうようにロンが手を引き言いました。

「エリザベータ姫、こちらへ。我々ではアレクの足手まといになってしまう恐れが」

「リザ、ロンの言う通りにして」

 アレクの力を仮に百としたら、リザで良いとこ十くらい、今のロンではせいぜい八、チヨさんで四か五というところでしょうか。

 この若い魔族はどれほどでしょうね?


「勇者アレックス・ザイザール、よくも前魔王さまの魂を……!」

 芝居がかった素振りで若い魔族がそう言うのへ、アレクがあっさり言ってのけます。

「良いよ、無理しなくて。デルモベルトに対してそんな気、さらさらないんでしょ?」

「バレましたか? それは失礼を致しました」

 若い魔族は優雅なポーズと共に頭を下げ、そして不意に頭を上げて続けました。

「では改めまして、私の名はレダ・コルト――」
 
 ヒュンっと音を立ててアレクがレイピアの剣先を振り上げ、そしてそれが振り下ろされた時にはもう、レダと名乗った若い魔族の背後にアレクの姿がありました。

「――新たな魔王ジフラルト様付きの執事……あ、あれ?」

「だから、悪いんだけどお話し聞かないってば」


 レダの左肩から反対の脇腹、左肘、斜めに走ったアレクの剣尖がレダの体を上下に分けました。

 魔王レベルでもない限り、アレクの実力で一人きりの魔族相手に手こずる事はほぼあり得ないんですよね。


 久しぶりのバトルシーン。今回は見逃しませんでしたよ。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...