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9「魔王と勇者と」
しおりを挟むなんと言う事でしょう。
ジンさんとレミちゃんが齎した報告。
それはなんと、去年アレクたちが打ち倒した魔王が早くも復活したというものでした。
しかし俄には信じ難いですわね。
確かに私は去年、アレクのレイピアが魔王デルモベルトの核に突き刺さるのを目にしました。
間違いなくデルモベルトの命を奪った筈なんです。
「……間違いないのか?」
「王様。残念ですけど間違いありません。この――、一度は魔王の命を奪った僕が請け合います」
アイトーロル王の言葉に凛とした声を返したのは、椅子から立ち上がったアレク。
どうやら目を覚ましたらしいですが、まだ痛みがあるらしくレミちゃんに殴られた後頭部を摩っています。
どうにもピリッとしない残念美少年勇者ですわね。
「お、目ぇ覚めたんかよ」
「うん――あのさ、僕どうして寝てたんだっけ? なんだか嫌な事があったような気がするんだけど――」
「良い。そのまま忘れて」
あら。
さっきのゴタゴタを覚えてないらしいわね。
それにしても自信満々に言ってのけたアレクですけど、魔の棲む森で一体何があったと言うのでしょうか。
魔の棲む森から予定を早めて戻った事ですし、確信に至る何かがあったのは間違いないでしょうけど。
「勇者アレックス。何があったか、説明してくれるか?」
「当然です。これから説明することはアネロナや他国にも届けて欲しいですから――」
まとめますとね、アレク達の言葉が正しいのならば、やはり魔王デルモベルトは復活したらしいの。
ただね、アレク達の話を聞く限りでは、ちょっとデルモベルトの雰囲気がおかしい気がしたのは気のせいかしら?
――あれは二日前。
その日も僕らは出会した魔物を狩りつつ、魔の棲む森の奥へと踏み入っていました。
もう二日ほどで森の向こう側、という所で日が暮れ始め野営の準備を始めたのですが――
アレク達が魔の棲む森へ踏み入るのは、森の向こうの魔族たちへの警戒、という事になっていますが、アレク達にも生活がありますからギルドで買い取ってくれる魔物や魔獣の素材を手に入れる目的もある、という事です。
魔族、魔物、魔獣、これらは人やその他の獣なんかとは異なる生き物として認識されていますが、その内で魔獣だけは悪しき者ではないとされていて、現にアレクは襲われた時以外はあまり魔獣を殺しません。
魔獣とはただ魔力を持って生まれた獣の事ですから、人族と同じくその魔力を悪事に使うかどうかだけの問題だと、そういう事ですね。
ただまぁ、普通の獣よりも大きい体と魔力を持っていますからね。普通の人にはどちらにしても脅威なんですけどね。
野営の準備として石を積んだ簡易の竈門を拵えたりなんかしてたそうですけど、その際、三人が三人とも視線と緊張を感じて木立ちの中へと視線を遣ったそうなの。
――木立ちの中の人影はゆっくりと姿を見せ、言いました。
『久しいが……、今この場で事を構えるつもりはない。またな――』
それだけを言い残し、少し微笑んだ人影は暮れ始めた夜陰に溶け込む様に姿を消しました――
「もしやその人影が……」
「おぅ、魔王デルモベルトそのものだ」
アイトーロル王の言葉にジンが答えました。
「そっくりさん、て事はねえのかい? それか影武者って事はよ?」
「ありえない。見た目だけならともかく、魔力の波長もデルモベルトそのものだった」
ジル婆の疑問にはレミちゃんが答えました。
やはり私が持っている魔王デルモベルトのイメージとは異なります。
かつて大陸を荒らし回ったデルモベルトはそんな、落ち着いた雰囲気の男ではありませんでした。
もっと思慮の浅い……、そう、一言で言えば「子供」の様な男だったはずです。
あの戦い、リザ率いるトロルナイツの援護を受けて魔の棲む森を抜けたアレク達は、向かってくる魔族や魔物を斬り伏せつつ、迂回できる魔族の町は迂回し、一目散に魔王城を目指して駆け抜けて、魔王城の前に立ちました。
森を抜けてから僅か数日という、まさに電撃戦でしたね。
そして一気に魔王城へ乗り込んで、魔王の間の扉を蹴破り何やら儀式を執り行う魔族の中へと踊り込み――
『……ま、待て人族の勇者――っ!』
――アレクは待たなかったわ。
魔王デルモベルトはアレクへと掌を向けて待つように叫びましたが、デルモベルトの頭上まで跳んだアレクは一つも躊躇う事なくデルモベルトの左胸にレイピアを突き、その核を抉ったの。
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