上 下
106 / 134
四章✳︎父と子

幕間3「天狗の過去」

しおりを挟む

 天狗はもともと、この世界の魔人族として生まれた。

 とりとめてどうという事もない、能天気に生きた一度目の生を終えたのち、改めて赤子として生を受けた地は、剃った頭の上で髪を結ぶ連中のいる、明らかに先の世界とは異なる不思議な世界。

 どうやら己れは、前世の記憶を持ったままに異なる世界で生を受けたらしいと悟る。

 さらにどうやら、魔人族ではなく人族になったらしいが、それでも魔力や魔術は問題なく使える、なんなら前世よりも魔力効率は高いらしいと気付くに至った。


 前世では普通だった自分の力が、どうやらここでは普通でないと幼くして気づいた天狗は、それなりにさとい』程度の子供のフリをして、時に隠れて魔術でズルや悪戯をしつつ過ごした。


 しかし天狗が生まれた家は、特別に貧しい訳でも豊かでもない、普通の農家。

 村の子供達を発信源として、変わった子供の噂が流れ、回り回って両親の耳にも入る事となる。

 それはウチの子の事ではなかろうと、両親が一笑に付した頃、大雨で流された橋をこっそり魔術で掛け直しているのを村の者に見られてしまう。

 そして村中の者から神童だと煽《おだ》てられた天狗は、少し調子に乗った。
 事あるごとに魔術を使い問題を解決していった。

 ある時は暴れ牛を取り押さえ、またある時は一突きで大岩を粉砕し、またある時は何もないところから水を出して飲んでみせた。


 とうとう不気味に思われた天狗は、遠い大和の寺へ入れられる事になる。


 二度目の生を送る天狗にとって、それはそれほど辛い事ではなかった。
 両親や兄弟と、なんとなく一歩も二歩も距離を置いて生きてきたから。


 そして天狗、なんの不満も覚えずに寺での修行の日々が始まった。

 やはり一向に苦ではなく、日々のお勤めに加えて魔術の研鑽に努めた天狗は、ふとある時、己れの中に何者かが住う事に気付いた。


 その何者かは、自分の魂に住み着く神様らしい。


 その神は何も言わないが、それでも毎日心で語り掛けたお陰か、寺での暮らしが十年ほどになった頃、なんとなく神と何かが繋がった気がした。

 その日から、少しずつだがその神の力――神力と名付けた力――を借りられる様になった。

 己れの魔力とどう違うのか、よくは分からないが根本的に違う事は分かった。
 しかし扱い方はそう難しくない。


 さらに十年ほど経ったある日。

 いつもの様に坐禅で精神を集中させ、魂に住む神へと語り掛けていた。
 すると不意に、自分の三倍はあろうかという白い虎が目の前に現れた。


 天狗はそれを見て、一つも驚かずに微笑んだ。

『ようやく出てきてくれたんだね』

 天狗の思いはそうだったが、共に暮らす他の僧侶たちはそうはいかない。


 師も同僚の僧侶も、悲鳴を上げて逃げ惑った。


 その結果、『外法による幻術を使う者』として寺を破門。


 しかしそれでも天狗は、この世界で生まれた時から一緒の『白虎』がいればそれで良いと、あっけらかんと笑って寺を後にした。

 置き土産とばかりに悪戯心に火をつけて、魔術を使って寺近くの池の水を竜の姿へかたどらせ、空高く飛び立たせて寺の者どもの度肝を抜いた。



 その後の天狗は、自由に、闊達に、思うがままに生きた。

 時には市井しせいの者を助けたり、権力者たちをみたり。

 主には自分と白虎が成長する事と、絆を深める事だけを念頭に置き、そして数十年、二度目の生も天寿を全うした。




 そして三度目の生。

 また再び赤子として生を受けた天狗が、産声を上げる事よりも先に行った事は、その魂に白虎がいるかを確認することだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...