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三章✳︎勇者襲来編

96「醜い姿」

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 揃って剣を構えたヨウジロウとタロウ。

「へぃヨウジロウ、儂はブチ切れておる。二人掛かりででもブチのめすつもりだが文句あるか?」

「是非もないでござる。有るのはボッコボコにして泣かす予定のみでござるよ」


 「かはは、よう言うた」と軽快に笑ったタロウ、イチロワの操るクィントラをまじまじと見詰め、そうしてからヨウジロウの顔を見遣った。


「お主ら親子のどっちがやったのか知らんが……、男前の見る影もないのぉ」

「……顔は……それがしでござるな……」

「……まぁ気にするな。クィなんとかには悪いが、もっと不細工にするつもりじゃし」


 なんとなく居た堪れない雰囲気になったが、

『クソガキどもガァ、生意気ほざキオっ――』

 二人に何か言おうとしたイチロワを無視して、二人の子供はそれぞれが斬りかかった。

 真っ直ぐ跳んで斬り下ろしたヨウジロウの剣はサーベルで受け止められて、地を這うように踏み込んだタロウの剣はクィントラの腹を再び裂いた。


『――まだわレが話しテおろ――』

 さらに無視、タロウが斬り上げた剣は右脇腹から左肩口まで、ヨウジロウが薙いだ剣は左の脇腹から右の脇腹へと、それぞれがっつり斬り裂いた。


『イやいヤ、ホンと大したモのだ。しかし竜の子たちよ、我の話しも――』

 再び無視して斬りかかる二人に対し、遂にイチロワが声を荒げて叫んだ。

 この世のものとは思えぬほどにおぞましく、聞いた事のない大音声。


『ボゲがぁぁァァァ! 我ノ声ヲ聞げぇェェあああ!!』

「「!!」」


 あまりの大音量に二人が怯む。

 しかしお互いの目を見遣り、頭を振りつつ気合いを入れ直し、再びイチロワの声を無視して斬りかかる。


『モう知らヌゥゥァァ! 貴様らの生き死にナぞ二ノ次にのつぎダぁああ!』


 再びの大声に、さらに神力もくわえて叫んだイチロワ。
 クィントラの体を中心にして、幾度も神力の波が発生する。


「「ぬ――、ぬぅ……、ぬぅぅぅああ!」」

 耐え切れずにヨウジロウが転がり、すぐ様タロウも転がって、それぞれ床を掴んで必死にしがみつく。


『死んだら死んだでモウどうでも良イ! 手加減なしダァ!』


 神力の波が止み、叫んだイチロワはヨウジロウとタロウに斬られた所を修復させつつも、一瞬ギュギュッと体を縮めた後に、ボコンボコンと体のあちこちを肥大させた。


「…………なんて醜い姿じゃ……」


 腹はでっぷりと歪に膨れ、顔も体もあちこちが非対称、美しかったクィントラの面影はどこにもなかった。


『死ネ! 話を聞かん子供ナぞモういラん!』

 体型に似合わず俊敏な動き、ブーツを履いた勇者Cより断然速く襲い掛かった。

「タロウ殿!」
「おぅ! なんとか見えとる!」

 イチロワは異常に肥大した右の拳をタロウ目掛けて振り下ろす。
 その腕を斬り飛ばすべく大剣を振るったタロウだったが――。

「なに! 刃が入らん!?」


 硬質な音がしたわけでもない、ただただその筋肉で弾かれた。
 そのままタロウは顔を殴られ床に叩きつけられた。


『うヒャははハハはは! ドうやら死んでは無サソうで良かっタわ!』

「――ぬ、ぬぐぅぅ、がは」


 すぐ様、立ち上がろうとタロウが床に手をつくが、どうにも力が入らないようで再び這いつくばった。


「タロウ殿! しっかりするでござる!」

 兼定二尺を構え、クィントラの胸目掛けてヨウジロウが突き込んだが、胸の前に立てた前腕で受け止めて弾いた。


『効かン効カん効かん効カン!』

 そしてイチロワは前蹴りを繰り出して、ヨウジロウの鳩尾みぞおちを深々と蹴り込んで吹き飛ばした。


「ぐはぁ――! こ、これはいかんでござる――」


 叩きつけられたタロウと違い、ヨウジロウは吹き飛ばされた。
 しかしこの部屋にはすでに壁がない。

 鳩尾を蹴られて呼吸の乱れたヨウジロウが、部屋の外へ放り出されては打つ手がない。

 地に落ちるまでになんとか呼吸を整え神力を練るしかない。

 そうヨウジロウが考えた時、不意にガシリと背を捕まえられた。


「ヨウジロウ、大丈夫か?」

「ごほっ――、ち、父上!」


 ヨウジロウを受け止めたのは父カシロウ。

「もう大丈夫なんでござるか!?」

「あぁ、トノのお陰でもうすっかり平気だ」


 カシロウはヨウジロウを床に立たせ、イチロワの足元で蠢くタロウに歩み寄る。

「タロウも貰うぞ」

「とりあエず今は持ってケ。邪魔だ」

 タロウを担いでヨウジロウの所へ歩き、タロウも床に立たせた。
 脳が揺れたらしく、未だにタロウはふらついていたが、ヨウジロウに肩を貸して貰って二人でなんとか立った。

「お主らは向こうの廊下の方へ行っておれ」

「しかし! 父上――!」


 カシロウを制止しようとヨウジロウが声を荒げるが、至って平常の声音でカシロウが言う。


「大丈夫。あとはこの父に任せておけ」
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