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三章✳︎勇者襲来編

66「旅へ出る許可」

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 会議はしばし紛糾した。

 二白天さえ知らされていなかった、キリコがエスードに連なる者という事実に騒がしくなるのも当然である。

 もちろん血の繋がりも王位継承権もないが、クィントラが魔王ビスツグの遠縁に当たるという事であるから。


「なぜ今まで隠しておったのじゃ」

「なぜって、こうやって騒がれるからに決まっています。僕は僕とは関係のない事で騒がれるのは望んでいません」


 ひどくつまらない事でも言うように、クィントラはそう言い切った。


「で? 具体的にどの程度の遠戚なのだ?」

「…………腹違いの妹ですよ」

「い、妹⁉︎ そうは言ってもエスードは人族ではないか。キリコ様は魔人族であらせられるぞ⁉︎」


 キリコは生粋の魔人であるユーコーと良く似た特徴を有している。
  翡翠色の瞳、やや尖った耳、異なるのは榛色はしばみの髪のユーコーよりももう少し明るい亜麻色の髪のキリコ。

 全般的に魔人は色素が薄い。肌の色も人族に比べると断然白い。

 
「あまりエスードとしては誇らしい事ではないのですが、キリコ様は父が魔人の女性に産ませた子です」

 そう言うクィントラの髪色も人族にしては淡い色をしている。恐らくは何代か前に魔人の血が入っているのであろう。


「今回あのバカのせいで明らかになってしまいましたが、キリコ様はリストル様の奥方であり、魔王ビスツグ様のお母上、僕の仕え方に変わりはありません」

 ディエスを指差したクィントラが、ビスツグに向き直り膝を折り、うやうやしくそう述べた。


「バカって……オマエ歳下じゃね――」

 言い掛けたディエスの頭頂部を、ゴツン! と音を立ててウノが殴りつけた。

「黙れ」

 殴りつけた上司のウノは、実はディエスより十も下の三十歳。しかしそれに対しては何も言わずに言われた通りに黙ったディエス。


 そんなやり取りを横目に、玉座から立ち上がったビスツグがクィントラへと歩み寄る。

「それでは……、クィントラさんは――」

「臣下に『さん』を付けてはなりません」

「――クィントラ、そなたは僕の――余の伯父上に当たるという事か……」

「まぁ……、そういう事に……なりますか」


 クィントラの言葉に、ビスツグの顔に喜色が滲む。
 幼くして母を亡くし、先日は父も亡くしたビスツグ。
 肩書きだけとはいえ、親戚が増える事は喜ばしい事なのだろう。


「ビスツグ様、貴方が私の甥であろうとも、今まで
リストル様に仕えたのと同じように仕えさせて頂きますから。さぁ会議を続けましょう」


 凛とした姿勢でそうビスツグに言い、立ち上がり一同へ呼び掛けた。


 クィントラの事が嫌いなカシロウでさえ、その所作は美しく見え、言動は正しく聞こえた。

 見え聞こえたが、それでもやはり、なぜかクィントラを好きにはなれない。
 どうしてそこまで嫌うものか、我ながら不思議に思うカシロウだった。



 カシロウの感覚は正しい。


 クィントラの表情も所作も言動も、完璧に作られたものである。
 彼に忠誠の心など一欠片ひとかけらもなく、ビスツグが自分に懐き始めた時、心の中のクィントラはいびつに口角を上げて不気味に微笑んでいたのであった。



● ● ●

 その後の会議の結果、対外的な方針が決まった。

 一両日中にも神王国パガッツィオへ向けて書簡を送りつける事。
 尚、その内容には、貴国の勇者ダナン・イチロワが多数の辻斬りを働いた為にこれを誅した、もう少し細かく書いてあるが、大筋としてはそれだけ。

 賠償を求めるなどするのが普通かもしれないが、魔王国にとって神王国とは、何を考えているのか掴み切れない、あまり踏み込みたくない相手。

 弱腰に過ぎると思うかもしれないが、この程度が無難な所だろうと落ち着いた。

 ちなみに被害者家族への賠償・保証に関しては、国とエスード商会が責任を持って行うと決まっている。

 


 ディエスの調査報告についてもう少し続きがあり、内容は『天狗と呼ばれる老爺について』『柿渋男について』の二本立て。


「……ま、二本立てなんて銘打ってますが、どちらも成果なしのトホホなんすけどね」


 天狗はともかく、柿渋男についてには期待して聞いていたカシロウはコケた。


「天狗の爺さまについては、『お宿エアラ』のエアラと付き合ってるのと、『天狗山に住む三百二歳の不思議な力を持った爺さま』としか判らなかった。生まれも本名も、どこでその不思議な力を得たのか、それも全て不明」

「ああ、あの不思議な力なら、転生された結果だと仰っておられたぞ」

「……なに? おめぇ、前に転生者じゃない、って言わなかったか?」

 ずいぶん前、ディエスにそんな事を言ったかもしれない。

「すまん、最近まで私が勘違いしていたのだ」

「ならもうちょっと調べようも…………ないか。生まれさえ分かんねえだから無理だな」


 リストル暗殺を果たしたと目される柿渋男について、その行方は杳として知れない。
 途中ディエスからウノに代わりながら、国内国外問わずの調査であるにも関わらず一つの情報も得られない、とすまなそうに説明された。


「その事にございますが――」

 カシロウが挙手とともに立ち上がって口を開いた。


「この私に、柿渋男探索の旅に出る許可を頂きたいのです」

「……敵討ち、ってやつか。俺の前世の頃にはあったらしいがな、大抵はかたきに会う事も出来なかったらしいぜ?」

 ウナバラの前世はカシロウの前世よりも二百五十年ほどのちの江戸時代後半。
 余談だが、ウナバラはかの『適塾』にて学び、二つ歳下に一万円札の肖像になった男もいたが、それはウナバラにはあずかり知らぬ事である。



「そうは言っても俺ら天影でも何一つ情報が集められねぇんだぜ? おめぇに柿渋男を追えるとは思えねぇよ」

 ディエスの言う通り、天影に見つけられないものを、カシロウ単身で見つけられる筈はない。


「それでもだ。リストル様のために何か出来ぬか、何が出来るかと考えた結果、それしか私には思い浮かばなかったのだ」


 シン、と静まる魔王の間。


 バン、とそれを破るように開かれた扉。


「ヤマオさん、旅に出てる場合じゃなさそうだよ」

「天狗殿、また勝手に入りましたな」

「それどころじゃなくってさ、魔獣だよ魔獣。それもけっこう強いやつ」

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