異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
上 下
184 / 185

最終話「異世界のニート」

しおりを挟む

「プックル! もうちょっとっすよ! 確かこの森抜けたらウギーんとこっす!」
「メェェェェェエ♪」

「ほら着いたっす!」
「メェ! メェェ!」

「そんなに褒めたら照れるっすよ~」


 タロウとプックルが東の森を抜けてやって来た様です。
 相変わらず賑やかで、久しぶりに会える日を楽しみにしていた甲斐がありますね。

「あ、ヴァンさん! 早いっすね!」
「昨日着きました。二人がタロウたちに会うのを楽しみにしてたんでね、早く行こうってうるさくて」
「二人? ロボと誰すか?」

 キョロキョロと辺りを見回すタロウ、ふふふ、さすがに誰のことか分かりませんよね。

「ここですよ」

 ボクの後ろから飛び出す二人。

「こんにちは!」
『初めまして!』

「おぉ! なんすかこのちっこいの!」

「人族の姿の方が長女、それを背に乗せている狼の姿の方が長男、どちらも四歳です」
「え! て事は……、ヴァンさんとロボの子っすか!?」

 驚くタロウからプックルへ視線を向けて、二人が元気よく挨拶しています。
 ロボの教育の賜物ですね。

「へ~人と狼とどっちも産まれるもんなんすね~。あれ? ところでロボは?」
「ロボは留守番です。今度三人目が産まれるんで」

「そりゃ目出度いっす! 今度はロボに会いにペリエ村にも顔出すっすよ! お土産持って!」

「タロウは全然変わりませんね」
「そうすか? ヴァンさんこそ全然老けてないっすけどね」

 タロウの見た目も全然変わってませんよ。あの頃の二十五歳のままです。


「お、なんだ。タロウ達もヴァン殿ももう着いてたのか」

 南からロップス殿も見えられました。

「ロップスさーん! 元気だったすか!?」
「ああ、みんな元気だ。チノ婆もまだまだ元気だぞ」

 あれからロップス殿はボルビックにお住まいです。
 確かご長男が七歳、去年は下の子が産まれたんでしたね。奥様はもちろんあの時のエイミさんですよ。

「約束の日は明日だぞ。二人とも気の早い事だ」
「そういうロップスさんだって今日来てるっすやん」

 十年前・・・のあの日、ウギーさんがタロウに五英雄の証をくれないかと言った日から数えて、明日でちょうど十年です。

 五年に一度、ここで集まる約束をしています。と言っても、それぞれがちょこちょこ会ってますけどね。

 『五英雄の証をウギーさんが引き取って新たな礎となる』、そんな事が出来る訳ないと思ったものでしたが、「俺らが認めたタロウが認めたなら良いだろ」と、思った以上に簡単に譲渡されてしまいました。

 誰からも反対意見が出なかった事に、逆に驚いたものです。

「そんでウギーはどこっすか? 家っすか?」
「あ、いや、裏の森で魔獣と集まっていました」
「ではみんなで行って驚かせようか」

 プックルに懐き始めた子供たちをそのままプックルに任せて、ウギーさんの下へと向かいます。
 裏へ回ろうと家を迂回す――

「ばぁ!」

 空からウギーさんが舞い降りました。

「びっくりした?」

 僕を含めて三人ともが尻餅をついてます。正直言って驚きました。

「ウギー! 脅かすな!」
「元気そうっすねー」

「二人も元気そうだね。けどちゃんと修行してるの? こんな事で驚いちゃってさ」

 ニヤニヤ笑うウギーさん。
 ウギーさんもみんなに会えて嬉しいみたいですね。



 今夜は腕によりをかけて夕食を作りました。
 タロウの要望もあって、マトンとマギュウのハンバーグに焼き立てのパンです。
 食後用に、タロウの証言を元にして小さな甘いカシパン・・・・も焼いてみました。

「久しぶりのヴァンさんの料理、やっぱサイコーっすわ!」

 料理を作るのは大好きですが、中でもタロウは世界一美味しそうに食べるから作り甲斐がありますね。

 ちなみに、これもタロウの要望ですが、家の中でなく外で食べています。結界を通して盗み聞きされますからね。誰に、とは敢えて言いませんが。

 久しぶりの再会で、この五年の事をお互い披露しています。

「そういやこの前、パンチョさんとファネルさんに会ったすよ。ガゼルさんとこで」
「爺さまコンビか。元気なのか?」

 寿命が尽きると言われたファネル様ですが、ウギーさんに代替わりした途端、五大礎結界から解き放たれると共に元気になってしまったんです。
 少し若返ってしまったかのようでさえありました。

 そして二人で世界を巡ると仰られ、数日後には旅に出られました。
 その際、正式にパンチョ兄ちゃんからタロウへプックルを譲られ、「この宝剣があれば、タロウの『自分の魔力が使えない問題』が解決するだろう?」と明昏天地あかぐらきてんちの宝剣も併せて譲られました。

 もう百二歳と九十七歳ですから、のんびりしてくれて良いと思うんですけどね。


「ところでタロウはガゼル様の所からですか?」
「そうっす。この半年くらいはガゼルさんとこで体術の修行っす」

 タロウはあれから五英雄の下を定期的に巡り、父さんとアンセム様からは魔術、ガゼル様からは体術、タイタニア様からは精霊術や大人のアレコレを教えて貰っています。

 大人のアレコレ、はタロウが言った通りに表現しました。

「お元気そうでしたか?」
「そうっすねー。全然寿命とか感じなかったっす。アレほんとに死ぬんすかね?」

 それなら何よりです。
 まだまだ長生きして頂きたいものですね。

「修行の方は順調かい?」
「そりゃもうバッチリっすよ。次のニートチャンスは間違いなくゲットしたいっすから!」


 十年前のあの日、ウギーさんは言いました。

『ボクじゃアギーに絶対に勝てない。今度アギーが動き出した時、アギーを抑え切れる可能性があるのはタロウしかいない。だからボクがこの北の生贄になる』と。

「じゃ明日はボクと手合わせしよう! ニート生活も悪くないけど、偶には体動かさなきゃ!」

 そう言ったウギーさんにニカッと歯を見せて笑うタロウ。

「良いっすよ! バラ色のニート生活を奪われた恨みを晴らしたるっす!」


 今夜は賑やかな夜になりそうですね。

 次の代替わりに備えて僕もちゃんとトレーニングしておきましょう。

 異世界から来た現ニートと、異世界から連れて来られたニート希望の二人に頼ってばっかりじゃ、カッコ悪いですからね。



 突然立ち上がったタロウが大声で叫びました。

「あぁぁ! 大事なこと言うの忘れてたっす! こないだプックルが一回だけ――」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭
ファンタジー
唐津 那雪、高校生、恋愛経験は特に無し。 メガネをかけたいかにもな非モテ少女。 そんな彼女はあるところで壊れた家を見つけ、魔力を感じた事で危機を感じて急いで家に帰って行った。 家に閉じこもるもそんな那雪を襲撃する人物、そしてその男を倒しに来た男、前原 一真と共に始める戦いの日々が幕を開ける! ※本作品はノベルアップ+にて掲載している紅魚 圭の作品の中の「魔導」のタグの付いた作品の設定や人物の名前などをある程度共有していますが、作品群としては全くの別物であります。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゴブリン娘と天運のミミカ

高瀬ユキカズ
ファンタジー
小説を読んで、本気で異世界へ行けると信じている主人公の須藤マヒロ。 出会った女神様が小説とちょっと違うけど、女神様からスキルを授かる。でも、そのスキルはどう考えても役立たず。ところがそのスキルがゴブリン娘を救う。そして、この世界はゴブリンが最強の種族であると知る。 一度は街から追い払われたマヒロだったがゴブリン娘のフィーネと共に街に潜り込み、ギルドへ。 街に異変を感じたマヒロは、その異変の背後にいる、同じ転生人であるミミカという少女の存在を知ることになる。 ゴブリン最強も、異世界の異変も、ミミカが関わっているらしい。

処理中です...