異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
上 下
176 / 185

132「これで終わりだ」

しおりを挟む

『……プックル、思イ、出シタ……』
『……………………思イ、出シタク……無カッタ……』

「プックルー!」
「嘘だと言ってくれぇ!」

 パンチョ兄ちゃんとロップス殿が幾度も結界を斬りつけながら叫びます。

 僕も混ざりたいくらいですが、この結界の魔術陣を探るのが先です。

『トカゲマンの魔力を借りられないのか?』
「可能ですが、ロップス殿の戦い方には満タンの魔力が必要です。結界が解けても、今イギーさんに太刀打ちできる可能性があるのはロップス殿だけですから」


「ギーの世代の同胞よ。なんて名前なんだぞ?」
『……プックル、名前ナンテ、無カッタ』
「そうか。お前たちのときは体があったのはギーだけだったからな。それも仕方ないんだぞ」

 やはりプックルの中には神の影が居たんですか。信じたくありませんが、どうやら確定のようですね。

「ではプックルと呼ぶんだぞ」
『……ソレデ、良イ』

「プックル、早速頼みたいんだぞ」

 タロウの髪を掴んだ右手を掲げ、再びバチバチと右手を放電させたイギーさん。

「ぐ……、ぐ、ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「生意気にも魔力で防ごうとしたのか。でも甘いんだぞ」

「ヴァン殿! タロウ殿が……、タロウ殿が!」

 ロボが泣きながら僕の服を掴みますが、まだ巧妙に隠された魔術陣を見つけられません。 

 もっと深く集中しましょう。
 僕に読み解ける魔術陣だと良いんですが……。


「さぁ、こいつだ。同化しろ」

 グッタリしたタロウを掲げ上げたイギーさんがそう言います。

『……完全ニ、カ?』
「完全にだ。こいつさえ乗っ取れば勝ちだ。同化を解く必要もないんだぞ」

 以前パンチョ兄ちゃんが乗っ取られた時、あの時は完全な同化ではなかったという事ですか。完全な同化の場合は、先程の大掛かりな魔術なしでは分離できない、と。



『…………プックル、シナイ。シタク、ナイ』

「よう言った! 神の影かなんか知らんが、我のプックルは、やはりプックルなのだ!」
「だーはははは! イギーめ思惑が外れよったわ! バーカバーカ!」


「…………黙れ」

 騒ぎ立てていた二人が思わず口をつぐむほど、ゾッとするほどの真剣な声音。

「お前の希望なんか知らないんだぞ。やれ」

『………………プックル、ヤラナイ』

 震えるような声のプックル。それでも拒み続けています。

「……そうか、分かったんだぞ」

 おもむろに神の影に向けて再び左掌を開くイギーさん。

「もう頼まない。力づくでさせるんだぞ」

 イギーさんが左掌を閉じます。


『メェ……、ギ、ギギャ…………』

 左掌が閉じられると共に、神の影が苦悶の声を上げる中、ジジジッと音を立てて結界が一瞬揺らぎました。

「……な!? ……ヴァンか! クソっ!」


 一瞬、本当に一瞬でしたが、結界の魔術陣に干渉できました。
 しかし……

 ……くっ、やはりイギーさんの対応が早いです。
 僕の干渉を避けるため、魔術陣の構成を僅かに弄り始めたようです。

 しかし、とにかく魔術陣を確認しました。
 内容はなんとか僕にも読み解けるものです。タイタニア様から頂いた精霊術のメモを勉強していたお陰ですね。
 以前の僕なら魔術陣への理解不足からきっと読み解けなかったでしょう。

 ここからはイギーさんとの追いかけっこ、イギーさんは結界を維持できるように魔術陣の改変、僕は結界の破壊を目指して魔術陣の改変、くっ、魔力の余剰さえあればここからは僕に有利な追いかけっこだったんですが!

「抵抗するな! 追い付かれるんだぞ!」
『……ギギャァ、ァ、アァ……メェェ……タ、ロ、ウ……』

 ガンガンと結界を叩きつけるパンチョ兄ちゃんとロップス殿が声を荒げてプックルを応援しています。
「プックル踏ん張れ! すぐに助けてやる!」
「ヴァン殿! まだか! まだ解けんのか!?」

 ロボも僕を応援してくれていますが、少し分が悪いです。このままでは追いつけません。更に集中しなければ。

 もっと深く魔力の操作に集中です。
 少ない魔力は集中力でカバーです。



 不意に、神の影の苦悶の声が途切れました。

「……手こずらされたが、掌握したんだぞ」

 大人しく黙る神の影に向けて、イギーさんが右手に掴んだタロウを掲げ上げました。

「さぁ、同化しろ」

 その声に反応した神の影がタロウへとゆっくり近付いていき、イギーさんがこちらに顔を向け、ニヤリと微笑みました。

 く、あと少しなんですが…………

「そこで黙って見てるが良いんだぞ」

 フンと鼻で笑い、「これで終わりだ」そう言ったイギーさんが視線を元に戻すと共に、急激に速度を上げた神の影がヌルッと口の中にその身を捻じ込みました。

 イギーさんの・・・・・・口の中へと。


「…………ぉごぉぉお――」

 ドサリとタロウを落とし、両手で神の影を掴み出そうと悶えるイギーさん。

 『もしかしたら』の期待は、ほんの僅かですが、確かにしていました。
 強制的に操られたとしても、神の影だったとしても、元はあのプックルですから。

 ゴクン、と神の影を飲み下したイギーさんが喚き散らして言います。

「バカが! ボクじゃない! こいつを乗っ取れって言ったんだぞ!」

 地に伏したタロウを指差して怒鳴ります。

「ふざけてないで早く出るんだぞ! やりなお――――!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...