異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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126「シリアスが足りない」

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「ふん、魔獣程度では役に立たなかったか」

 ロボの遠吠えで怯ませてからの、プックルの眠クナル魔法ですか。覿面てきめんですね。

 しかし有翼人たちには効果なし。

 あ、いえ、眠っているのが一人いました。一番体の大きな青年ですね。
 過去にプックルの眠クナル魔法で眠った有翼人はワギーさんただ一人でしたが。

「待つっす!」

 突如大声をあげたタロウ。

「なんだ生贄」
「今寝た奴の名前当ててやるっす!」
「ノーヒントで? はん、当たるわけがない」

「ロギーっすね!」

「な! なぜ分かったんだぞ!?」
「ふふふふ、なんで分かったかは秘密っす。ふふふふ」

 あ、当たってるんですね。

「お、おい、あいつヤバいだろおい。普通いきなりノーヒントで名前なんか当たらんだろ」
「只者じゃないぞ、きっと」
「おい! あいつの纏う魔力見ろ!」
「いや魔力よりもあの手の異様な動きを見ろ!」

「ふふふふふふふふ」

 タロウが意味深に笑いながら、僕の白い魔力、さらに青い自分の魔力、さらに混ぜ合わせて青白色と何度も色を変えつつ体に纏わせます。

「ふははははははは」

 魔力の色を変えながら、意味ありげに両手を様々な形に結んではほどきを繰り返しています。

「とくと見るっす。これがタロウ流忍術――」

 ニンジュツ? タロウは一体何をしているんでしょうか……。

「…………見よ!」
「「おぉっ!」」

 謎の言葉をぶつぶつと呟いたタロウが両掌を上へ向けて開きました。
 そしてその両掌から水柱が細く立ち登り、そのまま辺りを濡らし、四人の有翼人との間に小さな虹を作りました。

 真剣な表情で息を飲む有翼人たち。

 少し長めの沈黙が続きます。


「……おいタロウ。それは何だ?」
「忍術と言えば、印を結んで呪文を唱えるんす」

「お主のそれ、何か意味があるのか?」

「……ないっす」
「……引っ込んでおれ」
「すんませんっす」
「せっかくのシリアスが台無しだわ!」

 パンチョ兄ちゃんの言う通りです。タロウが喋り出すと途端にシリアスが霧散してしまいます。
 困ったものですが、あのまま戦い無しの平和的解決が望ましいんですけどね。

 さすがに難しいでしょうけど。


『さっきのタロウ殿凄かったでござるな』
『アレ、タダノ、水ノ魔法』

『なんで名前分かったんでござるか?』
「ワの一つ前はロだから、テキトーに言ったら当たったんす」

 スゴスゴと僕らの後ろに戻ったタロウの肩を叩いて労いました。

 

「さぁ、仕切り直しといこう」
「さっきのバカの事は忘れよ」

 改めて前に進み出るロップス殿とパンチョ兄ちゃん。

 しかし、四人の有翼人たちの視線はタロウへと注がれています。

「さっきの奴が気になって戦いどころじゃないんだけど……」
「お前もか、俺もだ」
「俺も」
「俺も」

 四人で円になって何事か相談を始めてしまいました。
 どうもアギーさん、イギーさん、ウギーさん、それにナギーさんの四人以外はこういうタイプばかりなんでしょうか。

 この一年近くに及んだ旅もクライマックスの筈なんですが、どうにもシリアスが足りない気がしてしまいますね。

「なぁ、おい。どうしてくれるんだ?」
「……いやほんとすんませんっす」


 タロウを責めたくなる気持ちも分かります。このどうでも良いやり取りの最中にも、大地の鳴動は続いていますから。

 大地の鳴動は続いているんです。
 大事な事なので二回言いました。

 猶予がない事を忘れがちですからね。タロウのせいで。


「ロップス殿、パンチョ兄ちゃん、あの四人は任せても良いですか?」
「ハナからそのつもりだったわ」
「私も同じだ。雑魚は任せて先へ行ってくれ」

「四人対二人ですが平気ですか?」

 僕の言葉に顔を見合わせる二人。

「ふふふふ。笑止」
「余裕だ、先へ進め」



「タロウ、隙を見て先へ進みます」
「ぶっちゃけ隙だらけっすけどね」

 タロウの言うことも尤もです。まだ円陣を組んでいますからね。

「この大地の鳴動もそうですが、後方に下がったイギーさんが不穏な動きをしています」
「え? あ、ほんとすね。なんか複雑そうな魔術陣を作ってるっすね」

 僕がウギーさんを結界に閉じ込めた時と同じ様に、陣を先に構築しておいて、いつでも使える様に仕込んでおくものの様ですね。

「このタイミングでそんな事してるっつう事は……」
「すでにもう居ない『神の影』の代わりとなるもの、なんでしょうね」
「そうっすよねぇ。って事はアレ、俺に使おうと狙ってるんすか」

 どういったものかは分かりませんが、恐らくはそうでしょう。

「走ります。ロップス殿、パンチョ兄ちゃん、フォローをお願いします」
「おう!」
「任せておけ」

 二人を置いて、四人の有翼人の横を一目散に駆け抜けます。

「あ、おい!」
「行かせるか!」

 四人のうちの二人が駆け抜けようとする僕らへと追い縋りましたが――

「ニンニン」

 タロウが両手を組み合わせて不可思議な言葉を吐くと共に立ち止まりました。異様なほど警戒しているようですね。

「ふふふふふ」

 何故か勝ち誇るタロウと有翼人との間にロップス殿が割って入りました。

「私が相手する」

 残りの二人の目前にはパンチョ兄ちゃんが立ち塞がり足留めしています。

「貴様らは我らと遊んでおれ」



「二人に任せて走りますよ!」

 無事に駆け抜けアギーさんとイギーさんの下まで辿り着くと共に、イギーさんが展開していた魔術陣がキィィンと音を立てて収束していきました。

「もう少しかかるんだぞ。少しアギーと遊んでてくれ」
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